(前編はこちら)
6月13日(土)、韓国・ソウルの鐘路(ジョンロ)〜市庁(シチョン)エリアを中心に行われたクィアパレード。行進は午後4時から開始され、約3kmにわたって行われました。
先頭にはレインボーフラッグを付けたバイク隊が道を先導し、その後ろを大きなレインボーの幕を持った人たちが追います。参加者を奮い立たせる太鼓隊「ホランイ」のパフォーマンスは圧巻で、リズムよくそろったビートがパレードの始まりを告げます。
それぞれ隊列の先頭にはデコレーションされたトラックが走り、トラックの荷台をステージとしてそれぞれがダンスや歌唱、演奏などのパフォーマンスが行われていました。マッチングアプリサービス「Tinder Korea」によるトラックとドラァグクイーンたちのリップシンクや、野菜や稲をモチーフにしたもの、「レズヒーローズ」によるK-POPパフォーマンスなどがありました。

それぞれ思い思いの形で荷台からプライドマーチを盛り上げ、そこに参加者が続きます。行進する人たちも、パレードには着ぐるみを着た人、飼い犬をペットカートに載せて行進する人、フラッグをマントのように羽織る人など多様なファッションに身を包み、音楽に乗ったりコールをしたり、一緒に写真を撮るなど、さまざまなかたちで楽しんでいました。
一方で、沿道や市庁周辺では反LGBTQ+のキリスト教系団体によるスタンディングや集会もありました。参加者へ向けた反同性愛的なメッセージがプラカードには掲げられていましたが、あえてその人たちの前で写真を撮ることで自分たちの権利を主張する人たちも見られました。
街を1周歩きスタート地点に戻るとパレードは終了です。自然に拍手が巻き起こり、歓声に包まれるなかパレードは終了しました。イベントはそれで終了ではなく、両側に設けられたブースではNPOや個人で出展する団体、大使館などがプライドにまつわるアイテムを販売したり、体験ワークショップなどを開催していました。
韓国のストリートブランド「Mosquito murderers」のブースにはレズビアンによる韓国恋愛リアリティーショー「ToGetHer(トゥゲットハー)」にも出演したヒヨン(희영)さんもブースに立ち、ブランドのコンセプトである、日常の退屈やストレスを打破するエネルギッシュなアイテムが販売され、賑わっていました。

インタビュー:日本からの参加者 Lalaさん(会社員)
パレードの終了後、参加者にSQPやプライドマンスについてインタビューを行いました。
ーー日本からパレードに参加してみていかがでしたか?
Lalaさん:
文化祭のように、みんな全力で歌ったり、叫んだりして楽しんでいるのが印象的でした。
また、企業や団体の営利目的での「とりあえずやってます」といった、いわゆるピンクウォッシュ的な雰囲気の人や団体がほとんどいなかったのも参加して感じました。今回のクィアパレードは文筆家の小沼理さんたちと一緒に歩いたのですが、マスクと帽子と団扇で顔を隠しながらパレードを歩いている人がいるのをみて2人で泣いてしまいました。

クローゼット(自身の性的指向や性同一性などを公表していない状態のこと)として、リスクを背負ったうえで、この場に参加するという意思を感じて感動したし、さまざまなバックグラウンドを持ちながら、選択してSQPに出向いて行進する姿が輝いて見えました。そうした意思は決してピンクウォッシュとは結びつかないし、みんな本気で楽しみ、本気で祝い、本気で怒り、本気で連帯しているように見えました。
ーープライドマンスでソウルのクィアコミュニティに触れた感想はいかがですか?
このエネルギーをどうやったら日本に持って来れるのだろう……とずっと考えていました。もちろん隣の芝が青く見えてるのは理解しているし、よく見てみるとソウルや韓国のクィアシーンにも解決していない問題がまだまだあるというのも現地のクィアと交流していても聞くことです。でも、今日SQPで歩いてみて、そこにあったエネルギーには憧れずにはいられませんでした。
ジェンダーバランスについてもTokyo Prideとの違いを感じました。これは見かけですが、同年代の若い女性の参加率が日本と比べて圧倒的に高かったように思います。見た感じでは全体の半分は10〜30代の女性なのではというくらい。エイジズムではないですが、比較的若い世代がイベントを主導しているエネルギッシュな姿にエンパワーメントされてそこでも泣きそうになりました(笑)
一方で、「ここに参加できていない年齢層が高いレズビアンやホモソーシャルの中で苦しんでる男性たちはどこにいるのだろう」とも考えました。

前日に弘大(ホンデ)のレズビアンバーで会った40代のお姉さんは、「勇気がないから行けない」と言っていました。パレードに来ていた「勇気」のある仲間ともハグは交わしたいけれど、あの場に来れずに家でパレードの報道を観て家族と気まずくなってチャンネル変えて……みたいなクローゼットのクィアや地方在住のクィア、オンラインで参加する仲間のことも抱きしめたいな、とも思っていました。
輝いて見えるSQPでも、そこには参加できない人たちなりの辛さや過酷な日常もあるということも、今回鐘路(ジョンロ)や市庁(シチョン)だけではないエリアのクィアと対話することで知ることができました。
インタビュー:現地からの参加者 オジェさん(グラフィックデザイナー)
ーーこれまでのプライドパレードと今回のプライドの印象についての感想をお聞かせください。
オジェさん:
2022年に初めてSQPにアライとして参加しました。その後、昨年の6月に東京を訪れた際に、渋谷で開催されていたTokyo Prideのパレードの列を偶然見かけました。 そして今年、再びSQPを訪れることになりました。

クィアパレードは社会情勢に応じて形を変えつつ、変えるべきでない部分は芯を太く持っています。ソウルも東京も、共通していることは温かく迎えあっていることだと思います。2022年に参加したSQPも、今年のSQPも、思い思いのメッセージを掲げ、声をあげながら、みんなが愛に満ちた雰囲気で街を歩く姿は微笑ましかったです。私にとってクィアパレードとは、性的少数者である人々が年に1度だけ主役となり、この空間において性的多数者になる特別な日です。
保守派との対立――会場問題と反対運動
SQCFが毎年直面する最大の課題が、保守系キリスト教団体との対立です。韓国の人口の約30%を占めるキリスト教のうち、プロテスタント保守派は強力な組織力を持ち、ロビー活動を通じて政治家への影響力を行使しています。

「同性愛クィアフェスティバル反対国民大会準備委員会」という団体はSQCFに合わせて毎年「反対国民大会」を開催しており、2022年には約1万5000人を動員しました。また、2014年には反対派によって5時間近くパレードの行進が物理的に阻まれる事態も起きています。
特に深刻なのがソウル広場の使用問題です。2015年以来、ソウル広場はSQCFのメイン会場として機能してきましたが、2023年にはキリスト教放送局CTSの文化財団が「青少年コンサート」の開催を同日同時刻に申請し、ソウル市はこちらに優先許可を与えました。CTSは同性愛とSQCFへの反対を公言していた団体であり、事実上の嫌がらせとも受け取られかねない状況でした。
翌2024年も同様に申請が却下され、市は広場で「野外図書館」を開催することを決定。SQCFは2年連続でソウル広場から締め出される事態となりました。それでも主催者と参加者は屈せず、会場を乙支路(ウルチロ)エリアなどに移してパレードを強行し、2024年は15万人以上の過去最多動員を達成しました。この粘り強さは、「どこにいても、あなたたちの隣で生き、働き、愛している」という連帯のメッセージを都市全体に刻み込みました。

法的・社会的課題 差別禁止法の不在と軍刑法
パレードが示す課題は、会場問題だけではありません。韓国には現在も、性的指向や性自認に基づく差別を禁じる包括的差別禁止法(平等法)が存在しません。2006年から国家人権委員会が制定を勧告し、複数の国会会期にわたって法案が提出されてきましたが、その都度、保守的なキリスト教団体の圧力によって阻まれ続けています。
また、軍刑法第92条6項の問題も重要な焦点です。この条項は男性軍人による合意に基づく同性間の性的関係を犯罪としており、最長2年以下の懲役刑を科す可能性があります。2023年10月には憲法裁判所が合憲と判断し、改正への道は依然険しい状況にあります。
一方、2024年には韓国最高裁が同性カップルも健康保険の被扶養者と認定する判決を下すなど、司法レベルでは変化の兆しも見られます。ギャラップ社の世論調査では、20〜30代の60%台後半が「同性愛も愛の形のひとつだ」と回答しており、若い世代を中心に意識の変化は確実に進んでいます。
包括的差別禁止法の不在、軍刑法の問題、行政と保守宗教勢力の妨害や癒着など課題は山積みです。しかし、毎年規模を拡大し続ける参加者数と、それを取り囲む多様な層の広がりは、社会の地殻変動を静かに示しています。K-POPが奏でるアンセムの向こうに、まだ見ぬ「新しい世界」への道が続き、鐘路や市庁エリアだけでなく梨泰院(イテウォン)、弘大とさまざまな場所でクィアの可視化と多様的な連帯が、ソウルはじめとした韓国におけるクィアコミュニティの未来を担う鍵になるかもしれません。
「Seoul Queer Parade 2026」
Instagram:https://www.instagram.com/sqpexe/
Web:https://www.sqcf.org/link

