同性のパートナーと二人暮らしを始めるとき、多くの人が最初に立ち止まるのが入居申込書の「続柄」の欄です。日本ではまだ同性どうしの結婚が認められておらず、二人の関係を書き表す言葉が用意されていません。部屋探しから契約までのどこでつまずきが起きるのか、そしていま何が使えるのかを順にたどります。
部屋探しは、なぜ「ルームシェア」から始まるのか
同性カップルの部屋探しは、多くの場合「夫婦」ではなく「友人どうしのルームシェア」として扱われます。その振り分けは誰がどう決めているのでしょうか。まずは、不動産業界を対象に行われた業界初の実態調査から見ていきます。
同じ二人暮らしでも、案内される部屋の数が違う
同性カップルが不動産会社を訪ねると、多くの場合、夫婦としてではなく「友人どうしのルームシェア」の枠に当てはめられます。法律上の婚姻関係になれないため、実務のうえではその扱いになりやすいのです。カップルなので間取りは1LDKでも構わないのに、寝室が二つある物件を前提に話が進んでしまう。カミングアウトしていない人にとっては、希望を伝えたくても伝えづらく、その負担そのものが壁になります。
問題は気持ちの面だけではありません。物件情報には「二人入居可」と「ルームシェア可」という別々の条件区分があります。不動産情報サイトを運営するLIFULLは、一般に「二人入居可」は夫婦や親族を想定していることが多く、友人同士の同居は「ルームシェア可」に当たるため、住まい探しの際には確認が必要だと説明しています。
つまり同性カップルは、条件を絞り込む最初の段階で、多くの人とは違う区分に振り分けられているのです。どちらの条件で探すかによって、候補に挙がる物件そのものが入れ替わってしまいます。
同じ物件でも、会社によって答えが変わる
一般社団法人住宅みらい会議は2025年5月、不動産業界におけるLGBTQ+当事者への対応実態について、全国の不動産関連事業者に従事する665名を対象とした調査を実施しました。業界初の包括的な調査とされ、信頼区間99パーセント、許容誤差5パーセントの精度が確保されているとしています。
このなかで、同性カップルの入居についてどう対応しているかを尋ねた結果が公表されています。「無条件で許可」が30.2パーセント、「ルームシェア扱い」が24.5パーセント、「パートナーシップ証明があれば許可」が21.1パーセント、そして「一律で拒否」が12.6パーセントでした。3割は普通に受け入れ、4割強は条件をつけ、1割強は最初から断っている。収入や勤務先がまったく同じ二人でも、どの会社のどの物件にたどり着いたかで結果が変わるということです。
では、なぜ対応が進まないのでしょうか。同じ調査では、取り組みを阻む要因も尋ねています。最も多かったのは「オーナーや入居者からの反発を懸念」で26.3パーセント。続いて「ノウハウ不足」が24.1パーセント、「課題や実態の理解不足」が14.1パーセントでした。差別的な意思よりも、前例がなく判断できないことが上位に来ています。実際、LGBTQ+当事者から住宅の相談を直接受けた経験がある人は6.6パーセントにとどまります。経験がないから判断がつかず、判断がつかないから断る。その循環が、会社ごとの差になって表れているのです。
申込書と契約書で、手が止まる三つの壁

理想の部屋にようやく出会えても、その先には書類の壁が立ちはだかります。続柄、住民票、緊急連絡先——ふだんなら何気なく記入できる項目が、同性カップルにとっては一つひとつ立ち止まって考えなければならない選択になるのです。ここからは、それぞれの項目について順番に見ていきましょう。
「続柄」の欄に、何と書けばいいのか
入居申込書には、契約者と一緒に住む人の関係を書く欄があります。様式は会社によって異なりますが、法律婚でも事実婚でもない二人には、当てはめられる言葉が用意されていないことがほとんどです。そのため多くの人は、「同居人」や「友人」と書くか、その場でカミングアウトして説明するかを選ぶことになります。
カミングアウトを選べば、部屋探しとは直接関係のないプライベートな領域にまで質問が及ぶことがあります。
一方で「友人」と書けば話は早く進みますが、二人の関係を実際とは違う形で申告した状態になります。どちらを選んでも落ち着かない。この居心地の悪さは二人の側に原因があるのではなく、申込書という様式がその関係を想定していないことから生まれています。
住民票の続柄を「夫(未届)」「妻(未届)」にできる街が増えている
続柄をめぐっては、行政の側で動きがありました。婚姻届を出していない事実婚の男女には、住民票の続柄欄に「夫(未届)」「妻(未届)」と記載する扱いがあります。この表記を同性カップルにも認める自治体が現れたのです。
先例となったのは2023年10月の鳥取県倉吉市で、2024年5月には長崎県大村市が男性カップルにこの記載を認めました。その後、栃木県鹿沼市、神奈川県横須賀市、東京都世田谷区、中野区などが続き、2025年10月には品川区、2026年2月には足立区でも始まっています。品川区の場合、対象は住民票のうえで同一世帯になっている同性パートナーで、東京都パートナーシップ宣誓制度の受理証明書を提示して申し出る仕組みです。
ただしこれは区独自の取り扱いであり、ほかの自治体や行政機関で同じ記載が保証されるものではなく、事実婚であることを証明する書類でもないと明記されています。
一方、住民基本台帳を所管する総務省は、実務上の問題があるとして慎重な姿勢を示しています。住民票は住民の居住関係を公証するための資料であり、その記載によって新たな判断を示すものではない、という位置づけからの説明です。
制度として全国一律に整ったわけではなく、住んでいる自治体によって使えるかどうかが分かれているのが現状です。
入居審査で本当に見られているのは何か
貸す側が審査で確かめたいのは、要するに「家賃を払い続けられるか」と「長く住んでもらえるか」の二点です。同性カップルであること自体が審査項目なのではありません。問題は、この二点に確信が持てないときに、「よく分からないので断る」という判断が起きやすいことです。
ここで不利に働くのが、先に触れたルームシェア扱いです。友人同士の同居は短い期間で解消されるものと受け取られやすく、その前提が同性カップルにもそのまま当てはめられてしまいます。実際には生活の基盤を共有している関係で、住み続ける期間の見通しはむしろ立てやすいのですが、この差が伝わらないままだと、審査だけが必要以上に厳しくなります。
こうした事情があるからこそ、契約者はどちらにするのか、収入はどのくらいあるのか、入居予定はどの程度の期間なのかといった情報を、質問される前に自分たちから具体的に伝えておくことが、大きな効果を発揮します。
二人それぞれの収入に余裕があることを示せる場合や、お互いの親族が連帯保証人になる場合は、貸す側が抱えるリスクが小さくなるため、契約に結びつきやすくなるのです。
緊急連絡先にパートナーの名前を書いてもいいのか
契約書類でもう一つ迷いやすいのが、緊急連絡先の欄です。連帯保証人と混同されがちですが、この二つは役割がまったく違います。連帯保証人が、入居者に代わって家賃を支払う義務を負うのに対し、緊急連絡先は、本人と連絡が取れない事態が起きたときに連絡するための先です。記入するのは氏名や年齢、住所、電話番号、そして続柄で、支払いの義務は生じません。あくまで「連絡がつかないときの窓口」であって、お金の責任を引き受ける立場ではない、ということです。
ただし、名前を書けばそれで終わりというわけではありません。入居の審査では、勤務先への在職確認とあわせて、緊急連絡先に確認の連絡が入ることもあるとされています。つまり、書いた相手には実際に電話がかかる可能性があります。パートナーを緊急連絡先にする場合はもちろん、家族や友人にお願いする場合も、事前に本人へ話しておくことが欠かせません。伝えていなければ、意図しない形で二人の関係が知られてしまうこともあり得ます。なお、緊急連絡先にどんな相手を求めるかは会社によって異なるため、申し込みの前に条件を確認しておくと安心です。そしてこの欄にも、やはり続柄を書く必要があります。
パートナーシップ制度の受領証は、どこまで使えるのか

自治体が発行する受領証さえあれば、住まいをめぐる悩みはすべて解消されるのでしょうか。行政サービスの窓口では確かに道が開けますが、民間の賃貸市場に目を向けると話は違ってきます。受領証が力を発揮する場面と、発揮しにくい場面を整理します。
受領証で申し込めるようになったもの、ならないもの
パートナーシップ制度は、二人がパートナーの関係にあることを自治体が受け付けたと証明する仕組みです。法律行為である婚姻とは異なり、宣誓によって法律上の効果が生じるものではありません。それでも東京都の場合、この受理証明書があることで日常生活のさまざまな手続きが進めやすくなり、都営住宅への入居申し込みなど、これまで利用できなかったサービスを受けられるようになりました。受理証明書の交付は2026年7月31日時点で2,255組に達しています。
制度そのものも急速に広がりました。渋谷区と認定NPO法人虹色ダイバーシティの共同調査によると、2025年5月末の時点で532の自治体が導入し、登録件数は9,837組にのぼります。人口カバー率は9割を超えました。
ただし、制度があることと住まいの問題が解決していることは同じではありません。国土交通省の研究機関である国土技術政策総合研究所の調査では、47都道府県のほとんどが性的マイノリティを「住宅の確保に配慮が必要な人」として位置づけている一方、1,700余りある市区町村では十数件にとどまり、意識の差が浮かび上がりました。
制度が導入されているかどうかを調べるだけでは足りず、その自治体が住宅の分野で何をどこまで認めているのかまで確認する必要がある、ということです。
民間の賃貸では「効くこともある」止まり
民間の賃貸借契約は、最終的には大家や管理会社の判断で決まります。受領証に相手を従わせる力はありません。それゆえに、先に見た調査で「関係性を証明する書類がある場合のみ許可している」という回答が2割強を占めるという、数字が出てくるのです。
証明書があれば手続きが必ず通るというわけではなく、あくまで交渉の場で話をスムーズに進めるための一つの材料にとどまっている、という表現のほうが実情に近いと言えるでしょう。
例外的に強い仕組みを持つのが渋谷区です。2024年4月に施行された「渋谷区人権を尊重し差別をなくす社会を推進する条例」は、性のありようなどを理由とした差別を禁じ、区に関わる人と事業者に対し、区が行うパートナーシップ証明を最大限配慮しなければならないと定めています。
あわせて、区長への相談や苦情の申立ての仕組みも置かれています。申立てを受けた区長は必要に応じて調査し、相手方に助言や指導を行います。それでも従わず、条例の趣旨に著しく反する行為が続く場合は、推進会議の意見を聴いて是正を勧告でき、勧告にも従わないときは関係者名などを公表できます。応じない相手への手順まで条文に書かれている点が特徴です。
不動産の現場は、少しずつ変わっている
断られた話ばかりではありません。当事者が運営する仲介会社、フレンドリー物件を掲げる大手の管理会社。貸す側と借りる側の双方で変化が起きています。同時に残る課題もあわせて見ていきます。
「うちは大丈夫です」と言う会社が出てきた
対応をうたう事業者は増えています。当事者とアライのスタッフが運営する不動産会社IRISは、管理会社やオーナーとの交渉を年間に数千件重ねながら、これまでに1万件以上の部屋を紹介してきたとしています。物件を探す前に、前提を共有したうえで相談できる窓口を選ぶ、という考え方です。
貸す側の動きもあります。積水ハウス不動産ホールディングスは、管理する70万室のうち65万室がサブリース契約であることを生かし、貸主の立場でLGBTQフレンドリー物件として提供していると説明しました。同社の担当者は、オーナーからの反発はまったくなく、自然に受け入れられていると語っています。
前向きな話だけではありません。賃貸契約の同意書に「LGBTの方は入居お断り」と書かれていた例、入居者の募集条件に「LGBT不可」という項目が表示されていた例などの事例が繰り返し報じられてきました。会社によって、地域によって、まだ大きな幅があるということです。
二人で暮らす部屋が、特別枠ではなくなるために
ここまで取り上げてきた困難の多くは、二人の関係そのものに問題があるわけではなく、申込書の書式や審査の慣行が同性カップルの存在を前提としていないところから生じています。
事前の準備には確かに意味がありますが、その負担をカップル側だけが背負う状況は、望ましいとは言えません。調査に協力した当事者の事業者も、マイノリティを特別に扱うことを望んでいるのではなく、公平な社会をつくりたいのだと語っています。
続柄の欄で記入の手が止まったとき、それを個人の問題ではなく書式のあり方そのものの課題として受け止められる人が増えていくこと。そうした意識の広がりから、状況は少しずつ変わっていきます。

