親と暮らせない子どもを家庭に迎える「里親制度」。その担い手に、同性カップルが加わり始めています。全国で初めて認定されたのは、2016年の大阪市でした。この記事では、制度がどう変わってきたのか、いまも残る法律上の壁、そして保育園や学校で周りの大人ができることを見ていきます。
里親制度とは、どんな仕組みですか
同性カップルと里親の話に入る前に、制度の輪郭を整理しておきます。名前は知っていても、養子縁組との違いまで説明できる人は多くありません。
里親と養子縁組は、何がちがうのですか?
里親制度とは、児童相談所が要保護児童の養育を家庭に委託する仕組みです。要保護児童とは、保護者がいない子どもや、保護者に監護させることが適当でないと判断された子どもを指します。ポイントは、戸籍上の親子関係は変わらないという点にあります。一方の養子縁組は、法律上の親子関係をつくる制度です。同じ「子どもを迎える」でも、目的が異なります。
里親は、次の4種類に分かれます。まず、一定期間、要保護児童を家庭で育てる養育里親(登録11,853世帯)、次に、虐待で心身に有害な影響を受けた児童、非行等の問題を有する児童、障害のある児童を育てる専門里親(同715世帯)、そして養子縁組を前提とした養子縁組里親(同5,619世帯)、最後に、扶養義務のある親族が育てる親族里親(同610世帯)です。
この記事で中心に扱うのは、登録数がもっとも多い養育里親です。のちに触れる大阪市のケースも、これにあたります。
親と暮らせない子どもは、日本に約4万人います
総務省の調査によれば、社会的養護のもとにある子どもは令和3年度末で約4万2千人にのぼりました。うち里親やファミリーホームに委託されているのは7,798人で、児童養護施設や乳児院で暮らす25,359人を大きく下回ります。
2016年の児童福祉法改正で「家庭養育優先の原則」が明確化され、できるだけ家庭に近い環境で育てることが原則とされました。里親等委託率も平成22年度末の12.0%から令和2年度末には22.8%まで上がっています。
ただ、地域差は小さくありません。令和2年度末の数字を見ると、全国平均22.8%に対し、最も低い宮崎県は10.6%、最も高い新潟市は58.3%でした。どこに住んでいるかで、子どもが家庭で育てられる可能性は大きく変わっているのです。
同性カップルが里親になれるようになるまで
同性カップルが里親として認められたのは、そう昔の話ではありません。しかもそれは、法律が変わったからではありませんでした。
全国で初めて認められたのは、大阪市の男性カップルでした
2016年12月、大阪市が市内に住む30代と40代の男性カップルを養育里親として認定しました。この事実が報じられたのは翌2017年4月で、厚生労働省は同性カップルの里親について過去に聞いたことがないとしており、全国でも異例と伝えられました。
注目したいのは、このとき厚生労働省の家庭福祉課が示した見解です。ガイドラインは里親希望者が同性カップルかどうかを定めておらず、ガイドライン上は同性カップルでも里親を希望することが可能だ、というものでした。
実際、国が示す里親登録の要件は、養育への理解と熱意、経済的に困窮していないこと、欠格事由に該当しないことなどです。そこに「配偶者がいること」は含まれていないことがわかります。
東京都の基準が変わったのは、2018年でした
東京都が里親の基準を変更したのは2018年からでした。見直し内容は以下の通りです。
- 2018年5月:認定基準の見直しを発表(同年10月実施)
- この見直しで、親族以外の同居人も「補助者」として認められるようになった
- あわせて、養育家庭65歳未満などの年齢の上限が撤廃された
- 2022年4月:同性パートナーを「配偶者」とみなし、2人とも里親として養育できるよう緩和
最初の段階では、1人が里親、もう1人が「補助者」という形でした。2022年の見直しで、2人そろって里親になれるように改正されました。現在は横浜市や千葉県も、公式サイトのQ&Aで同性カップルを認定できると明記しています。
「育てている」のに「親ではない」という現実

里親としての道は開かれました。しかし、法律上の親子関係となると話は別です。
特別養子縁組は、いまの法律では使えません
養子縁組のうち、実の親との関係を終了させて新しい親子関係をつくるものを「特別養子縁組」といいます。この制度を、同性カップルは利用できません。民法817条の3が、養親となる者は配偶者のある者でなければならないと定めているためです。ここでいう配偶者は法律上の婚姻関係にある夫婦を指すため、対象外となります。異性同士でも、事実婚のカップルは同じ理由で利用できません。
ここに、大きなねじれがあります。里親として「子どもを育てること」は開かれているのに、「法律上の親になること」は閉ざされたままなのです。
病院や学校で「家族」と扱われないことがあります
親子関係がないと、日常のどこで困るのでしょうか。この課題に正面から取り組んだのが、兵庫県明石市です。
同市は2021年1月8日、パートナーシップに加えて、ともに暮らす子どもを含めた家族関係を証明する「ファミリーシップ制度」を全国で初めて導入しました。市が導入の理由として挙げたのが、同性カップルの場合はどちらかの子どもがもう一方と親子関係を認められないケースが多く、病院への入院手続きができない、学校に迎えに行けないといった事態が起きるという実情でした。
この制度により、子どもの医療処置に関する同意や手続きなど、それまで親権者しかできなかったことがパートナーにも認められるようになりました。ただし、パートナーシップ制度そのものに法的な効力はなく、目的は生活上の不便を減らすことです。内容も自治体ごとに異なります。
なお、パートナーシップ制度は2024年6月時点で459自治体が導入し、人口カバー率は85.1%でした。2026年1月時点では約93%に達しています。
同性婚をめぐる裁判は、いま最高裁の大法廷へ
これらの壁の根っこにあるのが、同性同士の結婚が法律で認められていないという点です。この問題をめぐり、全国で6件の裁判が起こされました。
高等裁判所の判断は分かれています。札幌、東京(一次)、名古屋、大阪、福岡の5つの高裁が憲法違反と判断した一方、2025年11月28日の東京二次訴訟の判決だけが合憲としました。そして2026年3月25日、最高裁は6件すべてを大法廷に回付します。裁判官15人全員で審理する場で、統一的な憲法判断が示される見通しです。
判決の時期は、2026年度中とする見方から2027年初旬とする見通しまで幅がありますが、いずれにせよ日本で初めての最高裁の憲法判断となります(2026年8月時点)。仮に将来、婚姻が法制化されれば、特別養子縁組の「配偶者のある者」という要件も満たすことになります。結婚の話であると同時に、子育ての話でもあるのです。
子育てに関する悩み
ここからは、生活の場面に移ります。子育て家庭にとって、日常の接点は保育園や学校です。
学校に伝えるか、伝えないか。家庭ごとに判断が分かれます
「学校や保育園に、家庭の事情をどこまで伝えるか」。これは、LGBTの人たちの子育てを支援する当事者団体に寄せられる、代表的な相談の一つです。「子どもにどう伝えるか」という悩みも、よく寄せられています。
その背景には、気軽に相談できる相手が少ないという事情があります。「子育てについて話せるママ・パパ」と「LGBTQについて話せる友人」はいても、その両方について相談できる相手は、なかなか見つからないことがあります。
また、株式会社プラップジャパンや虹色ダイバーシティが行った調査では、約87%の人が「もし自分の子どもがLGBTだったら、社会からの差別が心配だ」と回答しています。身近な人に相談しても、十分に理解してもらえないかもしれない。そうした不安を抱えるのも、無理のないことかもしれません。
大切なのは、伝えるという選択も、伝えないという選択も、どちらも尊重されるべきだという点です。
子どもたち自身は、自分の家族をどう受け止めているのでしょうか
「同性カップルに育てられて、子どもは大丈夫なのか」。この疑問を口にする人は少なくありません。
家族社会学が専門の静岡大学・白井千晶教授は、アメリカでは里子の3%が同性カップルの家庭で育てられているという統計を挙げたうえで、海外の事例を見ても子どもへの悪影響はないと指摘しています。そして、運用面で間口を広げていない自治体は改善すべきだとも述べています。
現場からは、こんな声も出ています。実の親から虐待を受けた経験のある子どものなかには、女性2人の家庭だと安心できると話す子もいたというのです。多様な担い手がいることは、子どもの側の選択肢が増えることでもあります。
周りの大人ができる、いちばん自然な接し方

最後に、幼稚園・保育園や学校の関係者、地域の大人ができることを考えます。特別なスキルは必要ありません。
「お母さんは?」の代わりに使えるひとこと
いちばん手軽で効果が大きいのは、言葉の言い換えです。「お母さんは?」を「おうちの人は?」に、「ご両親」を「保護者の方」に置き換える。それだけで、答えに詰まる子どもが減ります。
ポイントは、これが同性カップルの家庭のためだけの配慮ではないことです。ひとり親家庭、祖父母と暮らす家庭、里親家庭にも、同じように届きます。誰かを気づかった特別な表現ではなく、全員に使える表現に置き換える、という発想です。
もう一つ気をつけたいのが、情報の扱いです。「知ったこと」と「話していいこと」は別だと整理しておくと迷いません。ほかの職員に共有する必要があるなら、まず本人に「どこまで伝えていいですか」と確認する。この一手間で、家庭は安心して相談できるようになります。
書類と声かけは、今日から変えられます
制度が大きく変わるのを待たなくても、園や学校の側でできることがあります。
- 書類の「父」「母」欄を「保護者1」「保護者2」に変える
- 緊急連絡先を複数登録できるようにする
- 行事の案内文を「保護者の皆さま」「おうちの方」に統一する
いずれも、誰かを特別扱いする変更ではありません。選べる欄を一つ増やす、呼びかけを少し広くする。それだけの話です。専門家からも、運用面の見直しが必要だという指摘が出ています。目の前の書類や声かけは、法改正を待たずに変えられます。
家族のかたちより先に、目の前の子どもを見る
2016年の大阪市の認定から、制度は確かに動いてきました。それでも、法律上の親子関係という壁は残ったままです。最高裁の判断も、まだ出ていません。
けれど、変えられることもあります。書類の一行、行事の案内文、「おうちの人は?」というひとこと。家族のかたちを確かめるより先に、目の前の子どもが安心して過ごせているかを見る。その順番を入れ替えるだけで、届く手はきっと増えていきます。

