カウンターカルチャーの結晶が集まる場所
東京・高円寺の雑居ビル4階に、ひとつの小さな宇宙があります。「Dig A Hole Zines(以下、Dig A Hole)」は、上海でレコードショップ「Uptown Records」を営んでいたアメリカ・カリフォルニア出身のSaccoと中国・上海出身のSophiaのふたりが2023年、高円寺に開いた、インディペンデントなZINEのクリエイターと独立出版をサポートするDIYショップ&ワークスペースです。
上海で培った、アンダーグラウンドカルチャーへの感度と、ふたりの視点が、Dig A Holeの雰囲気に溶け込んでいます。

高円寺という街でオープンしたことも偶然ではないはず。古着屋や古本屋、小劇場やライブハウスが混在し、資本の論理から半歩ずれて生きることを許容してきた高円寺。様々なカルチャーの受け皿として機能してきた、この街の体質とDig A Holeのスピリットは重なる部分が感じられます。
店内に足を踏み入れると、アメリカや中国、日本など色々な言語で作られたZINEやビンテージのレコード・カセット、そしてアート作品が板材の壁に並べられ、コンパクトなギャラリーのような空気が漂っています。併設するUptown Records Koenjiと一体となったその空間では、エクスペリメンタル、シンセ、アヴァンギャルド、ポストパンク、そして中華圏のアンダーグラウンドミュージックを専門としたレコードが並び、音楽と活字がひとつながりの世界を形成していました。
レコードを視聴しながら、ZINEを手に取って読む時間は、スクロールとアルゴリズムに支配された日常から切り離され、よりパーソナルな声の記録やコミュニティの文脈や世界に飛び込むような感覚を味わえます。特にアメリカや中国など海外のZINEは貴重で、ネットでは検索しても辿り着けないような、海外アンダーグラウンドの情報にZINEを通してアクセスできるのがDig A Holeの特徴でもあります。

ZINEとクィアネスは、高円寺とつながっている
店名「Dig a hole(穴を掘る)」という言葉には、表層を掘り下げ、見えていないものへとアクセスするというメタファーが宿っているようにも感じられます。また、この場所は「ミニコミ暴走族」という名前も併記されており、「ミニコミ」はミニコミュニケーション(少部数の自費出版物)、「暴走族」はアウトローな集団を指す言葉をそれぞれ表します。これらを組み合わせることでDIY出版の反骨精神やアンダーグラウンド性を表現しているようにも読むことができます。インターネットが情報の豊かさを約束しながら、同時に均質化を進める時代に、この店は高円寺に根差したカルチャーを大切にしつつ、「ネットでは辿り着けない何か」を物理的な空間で表現しています。
また、隣接するアナーキストクィア・コミュニティスペースの「NAMNAM SPACE」とも交流があり、クィアに関するテーマのイベントやトーク、ドキュメンタリーやショートフィルムの上映会なども行いながら、コミュニティが集ったり語る場をつくりエンパワーメントしています。純粋なジェンダーに関するイシューだけではなく、労働や移民、国家や食など幅広いイシューに触れることができるコミュニティスペースとしてそれぞれはコミュニティの交差性を支えています。
SaccoとSophiaは、現在進んでいる高円寺周辺の再開発に伴う独自性と個人商店を守るための集会にも参加し、街のこれまで築いてきたカウンターカルチャーを守ることに声を上げてきました。それはZINEという媒体の思想とも、クィアカルチャーが長くしてきた抵抗の身振りとも、まっすぐに繋がっています。
LGBTQ+あるいは国籍やバックグラウンドにマイノリティー性を抱えながら東京で生活すると、「自分のための場所」を探し続けるような感覚を持つことはごく自然な振る舞いとも言えます。日本のクィアコミュニティに言及すれば、プライドの商業化が進み、より多くの人たちにも知られるようになった一方で、プライドマンスのみのパフォーマンスとして「ピンクウォッシュ」として批判があったり、資本主義経済下での矛盾から居心地の悪さを覚える人がいるのも事実。
そうした中でDig a holeは、レインボーフラッグを大きく掲げているわけでも、クィアを前面に打ち出しているわけでもありません。ただ、それ以上にこの場所は、アンダーグラウンドを構成するDIY性や社会性、移民やクィアなどアイデンティティにまつわることなど、マイノリティ性とアートが自然に作品やイベントを通して表出し、関係し合ってこの場所を形成しています。 ビルの4階までエレベーターであがり、その扉を開けることは、穴を掘って、まだ見ぬ声と出会いにいく行為に等しいのかもしれません。

Dig a Hole Zines
住所:東京都杉並区高円寺北3-8-12,4階
アクセス:JR高円寺駅から徒歩5分
営業時間:水曜日〜日曜日 10:00 ~ 22:00
---
Instagram:https://www.instagram.com/digaholezines/

