中国国内でも群を抜いて国際都市として多くの人が行き交う街、上海。
流行や海外のトレンドがいち早く届く街として、また中国国内からもクィアが集まる場所でもあります。現在の上海のクィアコミュニティはどのようになっているのでしょうか。前編ではプライドやそれらへの規制の変遷、レイブシーンや書店の現地レポートをまとめました。後半は、クィアが集まるホームパーティーや集まりに参加し、上海のクィアコミュニティについて聞きました。

上海のクィア・ホームパーティー
この日は別日でクィアコミュニティの紹介や近況を教えてくれたJennyさんやその知人によるクィア・ホームパーティーに参加しました。メッセージアプリ「WeChat」(微信)でグループを作って、簡単な挨拶を済ませて集合します。参加者のうちの一人のアパートメントに集まって、それぞれ持ち寄った食材を料理したり、ドリンクを飲みながらゆるやかにスタートしました。それぞれが作れる料理を作ったり、音楽を選曲して踊ったりと終始自由で和やかなムードでした。
上海はじめ中国では、公衆でのクィアパーティーやイベントはそれ自体監視や規制の対象になりうるためこうした小さな単位でのパーティーや、知った仲での交流も少なくないとのこと。
ホームパーティーの参加者の1人は、「日本やヨーロッパほどオープンでもないため、特に日常的にクィアだとわかりやすいファッションや態度は避ける」と教えてくれました。その上で、中国ではクィアネスは日常に溶け込んでいるのでは?という話になりました。雇用や賃金格差、職場のSOGIハラスメントなどは日本のクィアコミュニティにおいても度々話される話題ですが、上海の場合は雇用はあるものの、前提としてクィアへの抑制や偏見があるため日常はクィアであることを隠して生活することがスタンダードの人も少なくないといいます。そのため知り合って数ヶ月経ってからお互いがノンバイナリー、レズビアンだと知った、というケースもあったそうです。

また、たとえクィアという属性自体が共通して合ったとしても、イベントの趣旨やそれぞれの人間性や趣味、ライフスタイルなどがマッチするかは別問題のため、限られたコミュニティで出会うことのむずかしさについても話されました。
点在するクィアネス。
翌日の夕方、静安寺地区周辺で別のクィアたちと新疆料理の店で待ち合わせて夕食を一緒に食べました。それぞれ心理学に関する本の翻訳をしていたり、民間企業の会社員として働いていたりバックグラウンドはそれぞれですが、近況報告や個人的な話などが展開されていました。
その中でもDianDianさんはプライベートなクィアコミュニティスペースを運営しており、東京のクィアコミュニティとも交流があるそう。これまでスペースは3〜4回ほど引っ越しており、運営するなかで摘発された経験もあるそう。情報がどこから漏れているかは不明とのことですが、そういった監視・抑圧から逃れるために引越しはある程度必要ということでした。
夕食の後は静安寺にあるレズビアンバーへ訪れました。ビルの二階にあがり、黄色いネオンの店の奥を進むと「TAKO」が表れます。赤いネオンに包まれた店内は広々としていて、しばしばDJイベントやポールダンスなどのパフォーマンスイベントも行われているそうです。11年目を迎えるTAKOは上海では数少ないクィアバーとしてレズビアンはじめ多くのクィアのゆとりの場になっています。

帰り際、入り口に飾られていた置物はLGBTQ+コミュニティを先導するスペースとして贈られたものだとリンリンさんが教えてくれました。当時はクィアコミュニティを支える場所として讃えらえていたものの、現在ではこれは摘発の根拠にもなる。それでもここにあり続け、入り口に飾られたブッチのポスターなどからはサポートへの覚悟やエンパワーメントの意思が垣間見られました。
インタビュー:上海・クィアコミュニティの輪郭
Q. 自己紹介をお願いします。
Jennyさん(She / They , 以下、Jenny):
アパレル企業で海外向けマーケティングの仕事をしています。趣味でアート作品を作ったり、時々DJをしたりしています。
DianDian/Taさん(He / Him , 以下、DianDian):
社会的企業で広報を担当しています。仕事の傍ら、友人たちと社会課題に関する慈善活動家が集まることができるスペースとオンラインコミュニティを運営しています。このスペースは誰でもイベントを開催でき、開設から約1年半でこれまでに少なくとも150件のイベントが開催されています。
Q. 上海のクィアコミュニティを一言で表すとしたら? その理由も教えてください。
Jenny:
「危険」です。すでに書かれているかもしれませんが、今日の上海では、LGBTQ+関連のイベントを公然と開催することは難しく、LGBTQ+の政治的なスローガンはもちろん、「クィア」という言葉自体を公の場で使うことさえ困難になってきていると思います。ありふれた虹の絵のような一見シンプルなものでさえも、掲げたり身につけるのはリスクを伴うように感じられます。
Q. 現在の上海、あるいは中国のクィアコミュニティの課題があるとしたら?好きな部分も教えて欲しいです。
DianDian:
まず、はじめに上海や中国のクィアコミュニティについて話すとき、自分は全員、あるいはすべてのクィアの人々を代表しているわけではないと前置きをさせてください。
私がクィアの生活に関心を寄せ始めたのは2024年頃です。それ以前は、私の生活は主にゲイの人々で構成されていましたが、徐々にレズビアン、トランスジェンダー、ノンバイナリーの友人もたくさんできました。これらの友人がいることは私にとって、とても重要だと思います。彼らと一緒にいることで、私はたくさんの幸せ、喜び、愛を得ました。彼らとの生活を共有することで、私はより強いコミュニティ意識を育み、他者を愛する方法を学びました。
Jenny:
私は「散在的」と表せると思います。クィアコミュニティについての質問なのに申し訳ないのですが、私自身の経験から言うと、私はクィアを自認していますが、上海で特定の「コミュニティ」に属しているとはあまり感じていません。クィアの友人も多いですが、私たちは集団として活動することはほとんどなく、必ずしもお互いを知っているわけでもありません。むしろ、クィアネスは個々の社会的なつながりを通して、より静かに存在していることが多いのです。
同時に、クィアであることは政治的な意味合いも持ち合わせています。だからこそ、社会的な関係性のなかで支援や理解を得ることが依然として重要なのです。 時として、このことが私を孤独に感じさせることもあります。
幸いなことに、私は様々な分野、シーン、そして社会的なつながりの中に、クィアの友人が点在しています。多くの場合、より深い繋がりや理解は、目に見えるコミュニティを通してではなく、一対一の会話や関係性を通して生まれます。
Dian Dian:
私もJennyさんと似た意見を持っています。 特に外部の政治環境は明らかに大きな課題です。クィアの発言が抑圧されているこの環境では、私たちはInstagram、Threads、およびさまざまな外部オンラインプラットフォームに頼るしかありません。中国で一般的に使用されているWeChat、Weibo、Xiaohongshuは、長い間検閲され、原型をとどめていません。投稿は削除され、議論への熱意は徐々に薄れていきます。深刻なケースでは、警察が捜査のためにイベントやコミュニティ、クラブなどの場所に来ることさえあります。警察との関わりにあまり経験のない私たちにとって、これは非常にトラウマになりうる出来事です。

中国語で「クィアに未来はない。失敗は続く。」と書いている
こうした外部環境がクィアコミュニティ内部にも影響します。
私のみる上海などのクィアコミュニティ内には常に「バブル」が存在します。私たちのニュースは常に比較的プライベートで内部的な環境に限定され、一般の人々や外部の世界に届くことはめったにありません。また、「クィア」という言葉自体が包括的な用語であるため、クィアコミュニティ内にも大きな違いがあります。中国の他の地域に比べて、比較的クィアフレンドリーな上海でさえ、私たちの視点から見るとまだ限界があります。
個人的には、私たちの中のクィアの人々は、より階級意識と人間主義的な関心を持ち、常に周縁のさらに周縁について考え、自分たちの特権がもたらすもの、友人たちの生活を向上させるためにできること、そしてより大きな団結を育むためにできることを考えるべきです。
コミュニティビルダーとして、クィアコミュニティがますます「小さなサークル」になっている問題にどう対処するかについても考えてきましたが、私の能力には限界があります。まずは私たち自身から始めるのが一番だと思います。
Jenny:
私にとって上海のクィア・コミュニティは、危険で散在しているように感じられる一方で、草の根的なホームパーティーやお茶会など、ささやかで親密な形で強固に繋がっているようにも感じられるのです。
DianDian:
「恵まれないクィアの人々」に関する活動をもっと増やし、より困難な状況にある人々にもっと思いやりを示し、トランスジェンダーの友人たち、親から家を追い出された人々、政治的な理由で家に帰れない人々、そしてメンタルヘルスのサポートを必要としている人々について、引き続き話し合っていくべきです。そうすれば、状況はきっと良くなるでしょう!
Q. 将来的に理想的なクィアコミュニティはどのようなものを想像していますか?(上海やそれ以外の中国の地域も含めて)
Dian Dian:
中国のクィアコミュニティ、あるいは中国全体に対して、私は行動を通して、より強い愛と帰属意識を育んできました。中国での新型コロナウイルス感染症のパンデミック後、私は日々の交流や会話に細心の注意を払い、それらがかけがえのないものであることに気づきました。コミュニティや空間を築く中で、以前は知らなかった多くのことを学び、理解することができました。それらすべてが、より多くの愛とケアをすべての人に届けたいという私の気持ちを育んでくれました。私の能力には限りがありますが、誰もが集まり、学び、共に成長できる環境を作ることが、私にとって何よりも大切なことです。
こうしてクィアコミュニティへの思いを語る機会をいただき、感謝しています。世界中のクィアの人々が団結し、共に困難に立ち向かい、互いに思いやりを持つことができるよう願っています。

