自然と建築の調和が美しい朝鮮王朝の宮殿、昌徳宮(チャンドックン)から一本外れた通りにセレクトショップ「Water and Air」はあります。「私たちはクィアだ。そして、クィアであることは美しい」という信念に基づき、美しさと独創性を探求する作品を展示・販売しています。
昌徳宮の小道には昔ながらの煉瓦づくりの建物が立ち並び、同じエリアにある伝統家屋「韓屋(かんおく:한옥)」エリアの北村韓屋村と同様に観光客が行き交います。伝統的な景色を残しつつ、美術館や有名なカフェが多い安国エリアと比較して落ち着いた雰囲気。こぢんまりとしたカフェやセレクト雑貨店を求めて足を運びます。

ささやか、そして質感のあるアイテム
2025年6月15日のプレオープンから22日の通常営業を開始し、1年を迎えたWater and Airは近年のソウルにおけるクィアシーンの変化を感じられる場所になっていると言えます。
元来、ソウルのクィアシーンといえば、少し中心街寄りのクィアの歴史がある鐘路3街(ジョンロサンガ)やさまざまな人種、バックグラウンドを持つ人々が集まる梨泰院(イテウォン)に代表されていました。
Water and Airにとって、「Queerness(クィアネス)」は大切なキーワードのひとつ。そのため当初、店主であるヨウさんは、クィアの方々が多く暮らしたり活動したりしている麻浦区や龍山区などの地域も候補として考えていたそうです。
しかし、ヨウさん自身が長く暮らし、また働いてきた鐘路区・苑西洞(ウォンソドン)のほうが、心地よく、自然に感じられたことから最終的にはこの場所にお店を持つことになりました。
ヨウさんはいいます。「実際のところ、クィアはどこにでも、いつの時代にも存在しています。そして私は、クィアという存在がどこか遠く離れた、決して出会うことのできない人々ではなく、たとえば近所の素敵なお店を営む店主が実はクィアである―そんなごく当たり前の事実を、さまざまな方々に知っていただき、出会い、互いに言葉を交わすきっかけになればと願っています。」
通りに面してガラスが張られているため店内が外からも見れるようになっています。このエリアの家屋独特の内と外の区別の様式や、セレクトショップ独特の入りづらさもこうしてシームレスに見えることで、自然に店内に入れるような工夫が見てとれます。

また、通りから見える壁面には小さなギャラリー「twelvirds」があり、比較的小さな作品でも店とともに目に触れる機会を提供しています。
店に入るとまず目に入るのは壁面の棚。NARAE SONGによる作品で、麻と石膏で作られています。Water and Airのコンセプトであるありのままの美しさを解釈し、波打った形はクィアの流動性や動きを感じるほか、麻とクィアネスの親和性などがこの棚に表れているといいます。
Water and Airは、「美しさ」「独創性」、そして「Queerness(クィアネス)」という3つの基準に基づいてセレクションを行っており、Instagramのプロフィールにも書いてある“We are queer. And queerness is beautiful.” という考えを礎に、美しさと独創性を探求する作品を紹介しています。
棚の窪みや出っ張りにクィアにまつわる書籍やポスター作品が置かれてあり、韓国内のクィアアーティストをはじめ、ヨウさんによるセレクトのさまざまな国と地域のクィアアーティストに出会うことができます。
店内に入って左側にはPOPUPスペースがあり、木で作られたハンガーラックにアイテムが吊るされていました。来訪時にはNAVI MANSIONによるノースリーブとデニムのパンツ、スカートが並んでおり、サイアノタイプ(太陽の光を利用して物体やフィルムの映像を美しい青写真に変える古典的な技術)を使用して作られたそれぞれ一点ものが販売されていました。
窓側には小さめの詩やエッセイ、絵本などの書籍、陶器作品が日を浴びていました。ヨウさんいわく、書籍は、衣服やライフスタイル・オブジェ以上に、クィアネスというアイデンティティをより明確かつ直接的に表現できる媒体だと考えており、一冊一冊じっくりと検討を重ねながら選んでいるそうです。
店内の作品がそれぞれ異なるマテリアル、それぞれの質感が違うことが五感を刺激し、アクセサリーや香りなどあらゆる豊かさに触れる機会を届けてくれます。
インタビュー:ソウルのクィアシーンの現在、そして新しい形
― ここ数年でソウルのクィアシーンに変化はありましたか?印象的なことを教えてください。
ヨウさん:韓国(ソウル)において、クィアの存在は、クィアではない方々にとっては今なおどこか距離のあるもの、あるいは自分たちとはあまり関係のない、遠い国の出来事のように受け止められているのかもしれません。

しかし、クィアであることを公にしながら活動している芸能人やアーティスト、作家の方々の存在、毎年継続して開催されているクィア・パレード、そして長年にわたり事実上のパートナーシップを築いてきたクィア・カップルの当事者や多くの活動家の方々による「Marriage for All(すべての人のための結婚)」や差別禁止法の実現に向けた取り組みを通じて、クィアの存在や平等に対する社会的な理解は、少しずつではありますが着実に広がってきているように感じています。
私たちの店「Water and Air」もまた、クィアの可視化のために、私自身ができる小さな実践の一つでありたいと考えています。
― 6月でOPENして1年を迎えられましたが、Water and Airの心境やこれからについてお聞かせください。
ヨウさん:
朝鮮王朝の宮殿であった昌徳宮の石垣のすぐそばに店を構えているため、石垣の向こうに広がる森が赤や黄色に色づき、やがて葉を落として静かな冬を迎え、再び若葉を芽吹かせ、いつの間にか深い緑に包まれていく―そんな移ろいを眺めながら過ごしたのが、この一年だったように思います。
この界隈はもともと、とても静かで落ち着いた雰囲気のある街でもあります。小さな店で、至らない点もあるとは思いますが、これからも初心を忘れず、一歩ずつ誠実に続けていきたいと考えています。
今後とも温かいご関心とご支援を賜れましたら幸いです。
「Water and Air」
住所:124, Changdeokgung-gil, Jongno-gu, Seoul, Korea 03051
アクセス:地下鉄 安国駅 徒歩15分
営業時間: 月、木〜日 13:00-19:00
定休日: 火・水曜日
Instagram:https://www.instagram.com/ounce.seoul/
Web:https://forms.gle/zPhRfexr3ErDUSHL6


