自閉症や難聴、先天的な遺伝子疾患など障がいを抱えながら生きる人たちは、差別や偏見、社会制度の壁に悩むことがあります。当事者の状況を知ろうとすること、寄り添う意識を持つことは、誰もが生きやすい社会を作るために大切な一歩です。この記事では、異なる障がいをテーマにした映画を5つ紹介します。
障がいをテーマにした映画を見る意義とは
当事者に寄り添ったリアリティや社会福祉の形骸化を批判する作品に触れることで、多様性理解を深めるだけでなく、無意識に根付いた偏見や善意の押し付けを改めるきっかけになります。一方で、障がいを「かわいそう」「乗り越えるために奮闘する」「涙を誘う」などの装置として扱われている映画も少なくありません。そのような表面的な要素だけを描いた作品は、間違った認識を広める要因になり得ます。社会福祉や多様性などの側面から「障がい」を考えるためにも、製作陣の意図や当事者への尊厳が明確に含まれている作品を見ることが重要です。
ザ・ピーナッツバター・ファルコン(2019年)
ダウン症の少年・ザックが「プロレスラーになる」という夢を叶えるために施設を抜け出した先で、逃走中の男・タイラーと出会い、冒険に出るロードムービーです。
| 原題 | The Peanut Butter Falcon |
| 上映時間 | 98分 |
| 制作国 | アメリカ |
| 監督 | タイラー・ニルソン マイク・シュワルツ |
| 出演者 | ザック・ゴッツァーゲン シャイア・ラブーフ ダコタ・ジョンソン ジョン・ホークス トーマス・ヘイデン・チャーチ |
ダウン症というと「いつもニコニコして周りを笑顔にする」「純粋無垢で微笑ましい」などのイメージが先行されがちです。また、障がいを持つ人は社会的に「保護されるべき存在」として固定化されやすく、そこに従順であることが無意識のうちに求められていることも少なくありません。
本作では、施設を抜け出したザックと行き場をなくしたタイラーは、利害が一致したことで旅に出ますが、そこには保護する・されるという固定化された関係性はありません。ザックを障がい者として特別扱いすることなく、ときにぶつかり合いながらも対等な人間として信頼関係を築いていく過程が描かれています。障がいを持つ人との友情について、理想や過剰な保護意識とは異なる形で示している点が魅力です。
サウンド・オブ・メタル(2019年)
耳が聴こえなくなったことで仕事やアイデンティティ失ったドラマーの青年・ルーベンが、デフ・コミュニティ (*) と交流することで新しい希望を見出していく物語です。
* デフ・コミュニティ:手話を第一言語(母語)とし、独自のろう文化(視覚重視の生活様式や価値観)を共有する人々で構成される社会のこと
| 原題 | Sound of Metal |
| 上映時間 | 120分 |
| 制作国 | アメリカ |
| 監督 | ダリウス・マーダー |
| 出演者 | リズ・アーメッド オリヴィア・クック ポール・レイシー ローレン・リドロフ マチュー・アマルリック |
本作は、聴覚を失っていく青年の不幸な物語として感動や同情を誘うのではなく、耳が聴こえない人たちに立ちはだかる社会的な大きな壁に焦点を当てています。ルーベンが直面するのは、身体的な変化だけではありません。人工内耳にかかる高額な費用や保険の問題、仕事を続けられない現実、アイデンティティの揺らぎや孤独感など社会的・精神的な不利益が多層的にのしかかります。多くの人に直接的な影響がないからこそ、マイノリティが安心して生活する権利が無視されてきた現実を浮き彫りにしています。
また、聴覚を取り戻したいと願うルーベンが、デフ・コミュニティと交わることで別の価値に触れます。それは、デフ同士だからこそ共有できる文化や連帯、静かな世界で生きる豊かさです。本作では「聴覚を取り戻すことが救いだ」という通念に対して、健常者とは異なる生の形であるとポジティブな視点を差し込みます。
ワンダー 君は太陽(2017年)
顔に先天性疾患を持つ少年が10歳で初めて学校に通うことになり、周囲の視線や悪意のある発言に晒されながらも居場所を見つけていくストーリーを少年だけでなく、家族や友人など複数の視点から描いた物語です。
| 原題 | Wonder |
| 上映時間 | 113分 |
| 制作国 | アメリカ |
| 監督 | スティーヴン・チョボスキー |
| 出演者 | ジェイコブ・トレンブレイ ジュリア・ロバーツ オーウェン・ウィルソン マンディ・パティンキン ダヴィード・ディグス |
マイノリティをテーマにした作品では、当事者の視点ばかりが描かれ、その周囲の人たちは「いじめる悪役」「いつでも寄り添う優しい味方」などリアリティに欠ける記号的な役割を担うことが多いです。それに対して本作では、息子を学校に送り出すことに不安を感じる両親やオーギーに意地悪をするクラスメイト、家族を独占されて孤独感を募らせる姉、オーギーの家族の形が羨ましい姉の友人など当事者の周りにいる人たちの心理描写があることで、多くの人が自分事として物語を消化しやすくなります。
障がいや見た目の違いに対する偏見や誤解を直ちに悪として処理するのではなく、何に違和感を持ち、どのように分かり合えるのか、その過程を知ることが重要です。オーギーをいじめるクラスメイト・ジュリアンを主人公にした続編『ホワイトバード』も制作されており、他者を排除する背景やそこからどのように変わるのかを描いているので、気になる方は、あわせてご視聴ください。
わたしはダニエルブレイク(2016年)
心臓発作で医師から就労を止められているが、福祉制度では「就労可能」とみなされたことで支援を受けられない中年男性と、二人の子どもを育てる困窮したシングルマザーの生活から社会制度の矛盾や課題を浮き彫りにする物語です。
| 原題 | I, Daniel Blake |
| 上映時間 | 100分 |
| 制作国 | イギリス |
| 監督 | ケン・ローチ |
| 出演者 | デイヴ・ジョーンズ ヘイリー・スクワイアーズ ブリアナ・シャン ディラン・マッキーナン |
障がいとは、見た目の違い、白杖や車椅子の有無など視覚的に判断できるものばかりではなく、精神不調や慢性疲労、心疾患などで健康に見えても働けない人が多くいます。そうした人たちは、社会的に「怠け者だ」「制度を悪用しようとしている」など心無い言葉とともに個人の努力不足として片付けられてしまうことがあります。
本作でメガホンを握ったケン・ローチ監督は「死に物狂いで助けを求める人に国家はどれほど関心を向け、いかに官僚的な手続きを行っているのか。その残忍性が制作のモチベーションになった」と語りました。彼が批判しているのはイギリスの社会福祉制度ですが、同じような課題は多くの国に共通します。医学的に診断できる障がいがないからといって、誰もが社会生活を全うできるわけではありません。支援が必要でも証明できない人が存在し、そういう人たちが排除されている現実を知ることは、社会福祉のあり方を捉え直すきっかけになるでしょう。
37セカンズ (2019年)
母親から過保護にされている脳性麻痺を患っている女性が、あることをきっかけに漫画家としてのキャリアや恋愛、家族との関係を変えようと踏み出す物語です。
| 原題 | 37 Seconds |
| 上映時間 | 115分 |
| 制作国 | 日本 |
| 監督 | HIKARI |
| 出演者 | 佳山明 神野三鈴 大東駿介 渡辺真起子 板谷由夏 |
障がいをテーマにした作品では、差別や家族愛、福祉問題は語られても、恋愛や性愛に関しては、腫れ物のように触れられることがほとんどありません。他者から拒絶されたり、自信を失ったりすることはあります。しかし、それは障がいがあるからではなく、誰にでも起こりうるものです。障がい者の欲望や恋愛感情は、健常者と同様に自然的であるにも関わらず、「障がいがあると恋愛ができなさそう」「性的欲求がなさそう」など勝手な憶測やラベリングに切り込んでいる点が、本作の特徴です。
また、障がい者を守りたいという思いが、支配や抑圧へと変わってしまうことも描いています。支援や配慮は大切ですが、当事者の主体性を奪ってまでやるべきことではありません。傷つかないようにあらゆる危険をすべて排除するのではなく、本人の選択を尊重し、傷ついたときに寄り添うことこそ、本当に大切な関わり方であると問いかけています。
スクリーンを通して「知ろうとする姿勢」の重要性
障がいを「感動」や「同情」を誘う要素としてではなく、当事者への理解や社会制度の課題を浮き彫りにする事実として描くことで、マジョリティが無意識に抱く偏見や思い込みを見直すきっかけとなります。同じ社会で生きる一人の人間としての尊厳を守るため、自身に何ができるのかを考えることは、誰もが生きやすい社会作りへの大きな一歩となります。興味の沸いた作品があれば、ぜひ視聴してみてください。

