双極性障害のある人にとって、仕事を続けるうえで大きな課題となるのが「調子の波」です。気分や体調が安定しない中で働くことは、想像以上に難しさがあります。本記事では、実際の経験をもとに、仕事への影響や向き合い方についてお伝えします。
調子が良いときに起きる「見えにくい問題」
双極性障害というと、落ち込んで動けなくなる状態が注目されがちですが、実際に働く中で強く影響を感じたのは、調子が良いときの状態でした。調子が上がっているときは、頭の回転が速くなり、作業もどんどん進みます。普段より集中できている感覚があり、「今のうちにやっておこう」と仕事を詰め込んでしまうことがありました。
わたしは発達障害もあるので、他人との距離や良いタイミングを掴みにくいことも加わり、困っていることを伝えにくい特性が、躁状態のときに起きやすい問題の背を押してしまい、のっぴきならない状況を作りがちになるのです。
「できます」「納期までに終わらせることは支障ありません」「おまかせください」は、嘘ではなく、絶好調で上向き加減の状態が持続できれば、自分のエネルギーを無視して仕事を進め、終わらせることができるのです。しかし、その反動は必ずあとから来ます。無理をした分だけ、急に動けなくなる時期が訪れ、結果として継続的に働くことが難しくなってしまいました。
コールセンター業務の仕事をしていたとき、わたしはかなり成績が良く、お客様の問題を解決する意味での受電数と一日の回数は、毎日上位を保っていました。その頃に、鬱と診断されて退職に至ったのです。
かなりの年数を経て双極性障害という診断が、大きな病院でついたのですが、振り返ると納得できる行為ばかりでした。自分では「できている」と思っている状態が、実はバランスを崩している最中だったと気づくのは、かなり後になってからでした。
動けなくなる時期に感じる焦りと現実

一方で、調子が落ちている時期には、まったく違う問題が起こります。これまでできていた作業に手がつかなくなり、簡単なことでも時間がかかるようになります。やるべきことは理解しているのに、体も頭も動かないという感覚が続きました。
特につらかったのは、「前はできていたのに」という感覚です。自分の中に「できる」「できない」「好調」「不調」の明確な基準があるからこそ、それができない現状に強い焦りを感じました。納期や仕事の責任もある中で、「やらなければいけないのにできない」という状態は、精神的な負担をさらに大きくしていきます。
他の人や家族から見ると、単に一時的な体調不良に見えるかもしれませんが、実際には仕事の継続そのものに関わる問題でした。
うまくいかなかった経験から学んだこと
こうした波に振り回される中で、うまくいかなかった経験も多くあります。
調子が良いときに無理をして仕事を詰め込んだ結果、あとから大きく崩れてしまい、継続できなくなったこともありました。また、調子が悪い時期にそれを隠そうとして無理を続け、さらに状態を悪化させてしまったこともあります。
当時は「もっと頑張ればなんとかなる」と考えていました。親世代も上司にあたる人たちも、鬱なんか気の持ちよう、楽しく気晴らしをして、またやる気を取り戻せばいいだけ、と思っていました。医療系でもあったわたしは、そういうことではないと理解していましたが、子を育てていく責任者でもあり、鬱のときにはそれを振り払い、見ないふりをしていたのです。
今振り返ると、それ自体が無理のある前提でした。双極性障害のある状態で働くということは、「常に同じように働けること」を目指すのではなく、「波がある前提でどう続けるか」を考える必要があると、今では強く感じています。
波を前提にした働き方の工夫
経験を重ねる中で、自分なりに少しずつ工夫できるようになってきました。まず意識するようになったのは、調子が良いときにペースを上げすぎないことです。できるからといって無理をすると、その後の反動が大きくなるため、好調時、躁のときには、タスクが8割で終わるように予定を組み、余力を残すようにしています。
調子が落ちる時期があることを前提に、スケジュールに余裕を持たせるようにもなりました。すべてを予定通りに進めようとするのではなく、「できない日があっても大丈夫な状態」を作ります。晴れているときに、見えない明日以降を、その前提で外出予定を組まず、今日でさえ午後からは雨かもしれない、と考えることと同じです。
それでも難しいことは多いのですが、「波をなくす」のではなく「波と付き合う」という考え方に変わったことで、少しずつ働き方が安定してきました。
理解がある環境で働けるかどうか
働き続けるうえで大きく影響するのが、周囲の理解です。双極性障害は外から見えにくいため、「元気なときがあるなら大丈夫なのでは」と思われてしまうことがあります。しかし実際には、その波こそが一番の難しさです。
調子の良いときと悪いときの差があることを前提に、無理のない関わり方をしてもらえるかどうかで、働きやすさは大きく変わります。「なぜできないのか」ではなく、「どうすれば続けられるか」という視点がある環境は、それだけで大きな支えになります。
波があるままでも続けられる働き方へ

双極性障害のある人にとって、安定して働くことは簡単ではありません。しかし、波があることを前提にした働き方を選ぶことで、続けていくことは可能だと感じています。
重要なのは「普通に働くこと」に自分を合わせるのではなく、「続けられる形」を探すことです。そのためには、自分自身の工夫だけでなく、周囲の理解や環境の柔軟さも欠かせません。
働き方の選択肢が広がることで、双極性障害のある人にとっても、現実的に仕事を続けられる社会に近づいていくのではないでしょうか。

