SNSは、私のようなLGBTQ+当事者にとって、ただのネット上のツールではありません。日常でなかなか話せない本音を吐き出せる場所であり、心細いときにそっと寄り添ってくれる存在です。しかし、その居場所が安全でなければ、心はすぐに閉ざされてしまいます。ここでは、私自身の経験も交えながら、SNSに求めるものをお話しします。
リアルでは語れない思いを受け止める場所として

「性」というテーマは、なぜか日常会話では触れにくいものです。だからこそ、自分の中だけで悩みを抱え込んでしまうことが多いです。私も長い間、「こんな感情を持っているのは自分だけじゃないか」と思っていました。比べる対象が身近にいないため、孤立感だけが静かに積み重なっていきました。
そんなとき、SNSは文字通りの「窓」になりました。ある日、匿名で「周りに同じ立場の人がいない気がして、ずっと一人みたい」とつぶやいたところ、「私も同じです」「よかったら話しませんか」とメッセージをくれる人がいました。やり取りを重ねるうちに、その中の一人が実は近所に住んでいることがわかりました。日常では絶対に交わらなかったはずの人と、画面越しに出会えた瞬間です。
現実世界では口に出せなかったことを、SNSでは自然と打ち明けられます。誰かが受け止めてくれる、その安心感が私を何度も救ってくれました。
安心してつながれるために必要な環境とは
私がSNSを使い続けられているのは、「関わり方を自分で選べる」からです。現実では、性のことを話すとき、必ず「誰に聞かれているだろう」という不安がつきまといます。しかし、SNSなら匿名性や距離感を自分の手でコントロールできます。
ある日は深夜までチャットで盛り上がり、笑い合うこともあれば、別の日は一言も発言せずにタイムラインを眺めるだけの日もあります。「今日は話したい」「今日は静かにしていたい」という、その日の自分の気分に合わせられることが、息苦しさを減らしてくれます。
安心できる環境とは、ただの機能やセキュリティだけで作られるものではありません。見たくない投稿や苦手な相手からは距離を置き、話したい人とだけつながれること。声を出す人も、そっと見守る人も、それぞれのペースでいられること。この柔らかさこそが、当事者にとっての本当の安心だと思います。
SNSで起こりやすい問題とリスク

もちろん、SNSには負の側面もあります。差別的なコメントや心ない言葉を浴びせられたことは一度や二度ではありません。「あなたは間違っている」と決めつけるような言葉は、たとえ画面越しでも心を突き刺します。投稿すること自体が怖くなった時期もありました。
もっと深刻なのは、自分の性の在り方を知られてしまう“アウティング”です。本人が準備できていないのに、第三者によって勝手に広められる──その恐怖とショックは、経験した人にしかわからないと思います。
さらに、ネットで知り合った相手と実際に会ってみたら、プロフィール写真とは別人が来た、性的な目的で近づかれた、物を盗まれたというケースも一部では報告されています。多くの交流は安全に行われていますが、こうした危険を避けるためには、安全機能の活用や信頼できる人とのやり取りが大切です。
それでも、SNSは私に希望をくれます。画面越しに、自分とは全く違う道を歩んできた人の存在を知ったとき、「こんな生き方もあるんだ」と胸が熱くなることがあります。近くにロールモデルがいなくても、SNSの向こうにそれを見つけられる──それが私にとっての大きな救いです。
当事者が本当に求めているSNSのあり方

安心して使えるSNSは、機能だけでなく文化や運営姿勢で成り立ちます。差別や嫌がらせへの対応が早く、通報やブロックがわかりやすく、処理の流れが見える──そんな運営は、利用者にとって心強い存在です。
また、自分の性別や性的指向を必ずしも明かさなくてよい選択肢があることも重要です。私は「話したいときだけ話す」「見せたいときだけ見せる」という距離感があるからこそ、安心して交流できます。
SNSがくれたつながりは、私の日常を少しずつ変えてきました。以前、SNSで知り合った同じ地域の人とクリスマスパーティを開いたことがあります。旅行のときには、おすすめの訪問先を教えてもらったこともあります。その友人とは今は遠くに住んでいて直接会うことはなくなりましたが、SNSでお互いの近況を送り合い、関係は続いています。物理的な距離を超えて人を結びつけてくれる──これがSNSの最大の価値だと感じます。
安心と自由、その両方を持つSNSなら、もっと多くの人が自分らしさを守りながらつながれるはずです。

安全性と多様性が守られる居場所づくりの重要性
SNSは、LGBTQ+当事者にとって自分らしくいられる大切な居場所です。そこには、日常の支えや未来のヒントをくれる出会いがあります。安全と多様性を大切にし、誰もが安心できる空間を作ることができれば、SNSはこれからも私たちをつなぐ大事な橋渡しであり続けるでしょう。