「ヤングケアラー」「きょうだい児」などとてもつらい意味を包含する言葉が世の中に増えてきています。主に病気や障がいを持った家族に対する「支え」をどうするかという文脈で出されますが、メンタルの不調、メンタル疾患を持った家族も同じような課題を抱えています。
家族がメンタル不調に陥ったとき、私たちは「何としても自分が支えなければ」と強く思いがちです。しかし、仕事とメンタルケアの両立は想像以上に過酷であり、知らず知らずのうちに自分自身の心身を削ってしまうことも少なくありません。支える側のメンタルまで崩してしまうことは、決して珍しくありません。
大切なのは、支える側が倒れないための「境界線」「デッドライン」を引くことです。本記事では、家族を支える私たちがなぜ『献身』の罠に陥りやすいのか、そして自分を守ることが結果として家族を救う理由について、共に考えていきたいと思います。
「献身」が「健康上のリスク」に変わる前に。共倒れのリスクを知る

メンタル不調の家族を支える生活は、出口の見えないトンネルを歩くような不安が伴います。特に「自分がしっかりしなくては」という責任感が強い人ほど、ケアラー自身の睡眠不足や精神的な疲労を後回しにしてしまいがちです。睡眠不足はさまざまな病気のリスクを上げ、肝心のケアのクオリティも下げてしまいます。
このような状態が続くと、みなさま自身の健康が損なわれるだけでなく、仕事のパフォーマンス低下や孤立を招く「共倒れ」のリスクが高まります。家族を大切に想う気持ちが、いつの間にか自分を追い詰める「自己犠牲」に変わっていないか、立ち止まって確認することが不可欠です。
例えば、相手の気分の波に自分の感情まで飲み込まれてしまい、夜も眠れなくなったり、仕事中も(家族に何かあるかと)スマホの通知が気になって集中できなかったりする状態は、非常に不安定な状態になっている一つのサインです。
職場で家庭の事情を周囲にどこまでどう伝えるかをしっかり決める

仕事を継続することは、みなさまにとって経済的な基盤を守るだけでなく、社会との繋がりを維持し、家庭以外の「自分自身の居場所」を確保する意味でも非常に重要です。
職場で適切な介護休暇などのサポートを受けるためには、上司や同僚への情報共有が鍵となります。すべてを詳細に話す必要はありませんが、「家族の通院で月に数回の中抜けが必要になる可能性がある」といった具体的な影響を伝えておくことで、無用な誤解や偏見を防ぐことができます。
また、日本には、(不十分ですが)家族の介護やケアのために利用できる「介護休業」や「短時間勤務」などの仕組みも存在します 。これらは決して「わがまま」ではなく、働き続けるために正当に認められた権利です。職場を一つの「チーム」と捉え、自身の状況を正しく伝える勇気を持ちましょう。
つぶれないためにメンタル疾患の家族と適切な距離を保とう
家庭内において、メンタル不調のご家族について自分のことのように抱え込みすぎないための「心理的な境界線」は、最も重要で、かつ最も難しい課題です。
相手の不調を自分の責任と感じてしまうと、24時間気が休まる暇がなくなります。ここで意識したいのが「自分がつぶれれば家族はもっと具合が悪くなる」ということです。相手が「どう感じるか」「どう回復していくか」は究極的には本人の問題であり、支える側がすべてをコントロールすることはできません。私たちは医師ではないからこそ、治療の全責任を背負うことはできないのです。
あえて「一人になる時間」を意識的に作ることや、趣味の時間を確保することは、決して薄情なことではありません。むしろ、自分自身の心の余裕を保つことが、相手を穏やかに見守り続けるための力になります。物理的に部屋を分ける、決まった時間にはスマホから離れる、といった具体的な工夫も効果的です。
私自身の経験から ── 過剰な配慮は「毒」になることもある

筆者(松田)は2009年にうつ病になり、休職、復職を繰り返し、2013年に「自殺されると迷惑だから」と産業医に言われ退職。そこから約2年間、うつ症状がひどく、ほぼ寝たきりになった過去があります。当時は、月の半分を実家、もう半分を板橋のアパートで過ごしていました。実家でもひたすら寝ているか(起きていられない)、無感情な目でTVを見ているかだったので親は心配したと思います。
しかし、親や祖母は過剰な干渉はせず、私を放置してくれました。これが本当に助かりました。うつ病で動けないみじめな私はただでさえ自尊心がズタズタになっています。そこで、病人のように(病人なのですが)接してもらってもよけい惨めになります。
後で聞くと、やはりとても心配でどうすれば良いのかわからなかったようです。ただ、何かあったとき(何もなかったですが)、すぐ動ける心の余裕が家族にはありました。ただ、どの程度干渉すべきか、もしご家族がメンタルクリニックに罹っているなら、医師の診断が絶対です。ここは間違えないでください。希死念慮(きしねんりょ:死にたい気持ち)がある場合、ちょっとした油断で大変な事態になるかもしれません。まず、医師の診断を最優先してください。
家族を思うならまず自分自身が楽になろう
家族を大切に想うからこそ、まずは自分自身の癒しを最優先に考えてください。ストレスコーピング(ご自身独自のストレス解消法)を見つけ、習慣化し、外部機関、専門家を頼ることは、共倒れを防ぎ、穏やかな「日常」を続けるために必須です。自分だけ、家族だけで抱え込むと、自分がつぶれてしまうばかりか、取り返しのつかなくなる事態を招いてしまいます。
家族とあえて「心理的な距離を置く」ことは、決して冷たさや見捨てではありません。それは、お互いがひとりの人間として自立し、健やかな関係を再構築するための、前向きな「技術」なのです。みなさまが自分自身を大切にできている、その心の余裕、生活上の「遊び」こそが、メンタル不調の家族へそそぐ愛を維持するための原動力になるのです。
みなさまが笑顔でいることが、メンタル不調の家族にもプラスになります!
みなさまが心身ともに健康でいることは、メンタル不調のご家族にとっても大きな安心材料となります。支える側が疲れ果て、笑顔が消えてしまうことは、当事者にとって「自分のせいで申し訳ない」という新たなプレッシャーになりかねないからです。
場合によって距離を取ることは、相手を突き放すことではなく、二人三脚で長く歩き続けるための「テクニック」です。まずは自分を大切にすることから始めてみませんか? その一歩が、家族全員の安心できる未来につながっています!

