「訪問看護」と聞いて、どのようなイメージをお持ちでしょうか。「家に来る看護師さん」「何をしているのか分からない」と感じている方も多いかもしれません。
訪問看護は、医療行為だけでなく、在宅での生活全体を支える役割を担っています。その一方で、制度だけでは解決できない生活課題に直面する場面も少なくありません。
本記事では、訪問看護師が現場で向き合っている課題について解説します。

必要な支援量に対して介護度が追いつかず、独居生活が支えきれないケース
介護保険を利用して訪問看護などのサービスを受けるためには、要介護認定を受ける必要があります。
しかし実際には、独居で家族の支援が得られず、本来は複数のサービスを必要とする状況であっても、認定された介護度が実態に見合わず、十分な支援を受けられないケースが見られます。
介護度は、主に身体機能や日常生活動作(ADL)をもとに判定されるため、見守りや環境調整が必要なケースや、精神的・社会的な要因による生活困難は十分に反映されにくい側面があります。その結果、制度上は「一人で生活できる」と判断されてしまい、必要なサービス量が確保できないまま独居生活を続けざるを得ない状況が生まれます。
例えば、身体的には自立していても、服薬管理や金銭管理が難しく、生活が成り立たないケースもあります。
こうしたケースでは、体調悪化や生活の破綻リスクが高まる一方で、制度の枠内だけでは十分に支えることが難しく、訪問看護師をはじめとした支援者が個別に対応せざるを得ない場面も少なくありません。
簡易宿泊所の劣悪な住環境が健康に影響しても、転居が難しいケース
簡易宿泊所(ドヤ)は古くからある建物も多く、衛生環境が十分とは言えない場合があります。長年同じ場所で生活する中で、室内の老朽化や清掃の行き届かなさから、トコジラミなどの害虫が発生しやすい環境にあるケースも見られます。一度発生した害虫は駆除が難しく、再発を繰り返すケースも少なくありません。
こうした環境は、皮膚トラブルやアレルギー症状、呼吸器疾患などの健康被害につながることがあります。しかし生活保護制度では、特別な理由がない限り転居が認められにくく、問題のある住環境での生活を継続せざるを得ない現状があります。
さらに、体調を崩した場合でも、受診に至るまでには手続きや心理的なハードルがあり、必ずしも医療にスムーズにつながるとは限りません。その結果、環境による健康被害が見過ごされたり、悪化した状態で発見されるケースもあります。
訪問看護師は、こうした状況の中で疾患の早期発見や悪化予防に努めるとともに、可能な範囲で生活環境の調整や関係機関との連携を図りながら支援を行っています。
依存症や後遺症による“制度のはざま”の問題に支援者が向き合うケース
知的障害や発達障害、依存症やその後遺症、精神疾患などを抱えながら地域で生活している人もいます。こうした背景から安定した就労が難しく、生活保護を受給しながら暮らしている人や、住まいを持たず生活している人も少なくありません。
一方で、依存症やその後遺症の影響により、日常生活の中でトラブルが生じやすいケースも見られます。警察対応や入院に至るほどではないものの、支援者間で対応を求められる“制度のはざま”の問題です。例えば、多量の失禁による住環境の悪化や、カテーテルの自己抜去といった医療管理上のリスク、金銭トラブルなどが挙げられます。一見すると小さな問題であっても、積み重なることで生活の継続が難しくなるケースも少なくありません。
こうした問題は周囲との関係性に影響を及ぼし、地域での孤立を深める一因にもなります。しかし、表面化している行動だけでなく、その背景にある障害や疾患、生活環境を踏まえて関わらなければ、根本的な解決にはつながりません。
訪問看護師は、こうした二次的な問題の発生や悪化を防ぐために、服薬管理や体調の観察、生活状況のアセスメントを行いながら支援を続けています。また、必要に応じて主治医や関係機関と連携し、対象者が地域で生活を継続できるよう支える役割を担っています。

制度だけでは解決できない課題に、訪問看護師はどう向き合っているのか
訪問看護は、医療保険や介護保険といった制度のもとで提供されるサービスですが、実際の現場では、それだけでは解決できない生活上の課題に数多く直面します。
本記事で取り上げたように、介護度と実際の支援ニーズのずれや、住環境による健康被害、依存症や後遺症による“制度のはざま”の問題など、その内容は多岐にわたります。これらは制度の枠組みだけでは十分に対応しきれないケースも少なくありません。
そのような中で訪問看護師は、医療的なケアにとどまらず、生活全体を見据えながら関わり続けることが求められます。関係機関と連携し、試行錯誤を重ねながら、その人が地域で暮らし続けられるよう支援を行っています。 制度を整えることはもちろん重要ですが、それと同時に、「目の前の一人にどう関わるか」という視点も欠かせません。訪問看護の現場は、その両方に向き合い続けている場所と言えるでしょう。

