セクシュアル・マイノリティの人々は、日常生活の中で心に大きな負担を抱えることがあります。本記事では、その背景と課題、そして社会や身近な人ができる支援の形を紹介します。
メンタルヘルスに影響する社会的背景

私たちセクシュアル・マイノリティは、日常の中で自分を守るために「本当の自分」を隠す瞬間が少なくありません。何気ない会話の中の偏見や無意識の差別的な言葉に傷つくこともあります。その積み重ねは、自分でも気づかないうちに心をすり減らします。
実際、LGBTQ+当事者は非当事者と比べて不安やうつのリスクが約3倍にのぼるとの報告があります(Human Rights Campaign Foundation, 2023)。特にトランスジェンダーの若者は、同年代の約4倍もうつを発症する可能性があるとされます(The Trevor Project, 2022)。こうした数字は、日常的な「生きづらさ」の裏付けです。理解してくれる人がいない環境では、その負担はさらに重くなり、心のバランスを崩す原因となります。
当事者が抱えやすい心の課題

幼い頃から、戦隊ごっこなどの活発な遊びよりも、おままごとのような遊びを好んでいました。それ自体は自然なことですが、小中学校では「女っぽい」とからかわれ、いじめの対象になることもありました。成人してから勇気を振り絞って両親にカミングアウトしましたが、「病気だ」と言われ、人を好きになる気持ちそのものを否定されました。
その瞬間から、自分の感情に大きなふたをかぶせ、「本心を話したらまた拒絶されるのでは」という恐れが根付きました。35歳を超えた今も、自分の本心を誰かに伝えることには大きな労力が必要です。
こうした経験は私個人のものですが、多くの当事者にも共通します。家庭で受け入れられなかった人、学校でのいじめや排除を経験した人、職場で無理解な対応を受けた人――外からは普通に見えても、内面では「隠れた疲弊」が進行し、心のエネルギーを消耗させていきます。これは性のあり方ではなく、社会の態度や環境がもたらす深刻なメンタルヘルスの課題です。
社会全体で必要な支援と取り組み

セクシュアル・マイノリティのメンタルヘルスを守るには、社会全体の理解と制度的な支援が欠かせません。もし学生時代に安心して話せる相談窓口や多様性を学べる授業があれば、孤立感や恐怖は和らいでいたかもしれません。
学校にLGBTQ+を支援する団体(GSA)がある場合、若者の自殺未遂率は約16.9%と、設置のない学校の33.1%に比べてほぼ半減するとの報告があります(The Trevor Project, 2022)。こうした場は、心を守る命綱にもなり得ます。
見落とされがちなのが「無意識な差別的発言」です。近くに当事者がいると思っていないため、軽い冗談や偏見を含む言葉を口にしてしまうことがあります。しかし、マイノリティ=ゼロではありません。隣に座る人も当事者かもしれないと想像するだけで、使う言葉は変わります。それは「差別」ではなく「配慮」です。
制度面では、差別禁止法や同性パートナーシップ制度の整備、職場や地域での多様性研修が効果的です。メディアやSNSでの正しい情報発信や当事者ロールモデルの可視化は、偏見のない空気を育みます。特別視せず、多様性が当たり前にある社会こそ、心の健康を支える基盤です。
身近な人ができるサポート
身近な人の存在は、当事者の心の大きな支えになります。私も「本心を話すには労力がいる」状態が続いていますが、それでも心を開ける相手が一人いることは、孤独や自己否定感を和らげてくれます。
大切なのは、否定せずに受け止める姿勢です。「そんなこと気にしなくていい」ではなく、「そう感じるんだね」と共感を示すだけで安心感は変わります。カミングアウトしていない場合は、その選択を尊重しましょう。
トランスジェンダーの若者が選んだ名前を家庭・学校・友人間など複数の場面で使える場合、うつ症状や自殺リスクが大きく減少するとの研究もあります(Russell et al., 2018)。日常の小さな配慮が命を守ることにつながるのです。
必要に応じて専門家や支援団体への橋渡しも有効です。The Trevor Projectや、国内ではにじいろ電話・プライドハウス東京など、安心して話せる場があります。
周囲の配慮がもたらす安心と社会の変化

LGBTQ+のメンタルヘルスは、本人の強さだけでは守れません。私も偏見や拒絶に傷つき、自分の気持ちにふたをして生きてきました。支えになったのは、そっと話を聞き、存在を否定しない人たちでした。
社会や制度の変化はもちろん重要ですが、日常の何気ない言葉や態度こそが安心できる環境をつくります。「目の前の誰かも当事者かもしれない」と思うだけで、言葉は変わります。それは差別をやめることではなく、配慮を増やすことです。
LGBT+の心の健康は、周囲の理解と行動によって守られます。誰かの生きやすさを広げる一歩を、今日から踏み出しましょう。