職場でのLGBTへの理解は広がりつつあります。しかし依然として 採用や昇進、日々のやり取りの中には、当事者だけが気づく「見えない壁」がまだ残っています。表面的には問題がないように見えても、本人にとっては心理的負担や孤立感を生む場面が少なくありません。
本記事では、現状や当事者の声をもとに、 LGBTと仕事の関係を整理し、 誰もが安心して働ける職場づくりのヒントを探ります。
セクシュアリティと就職活動の壁

仕事の前段階である、就職活動の時点から壁を感じる人は多いです。制度の面や選考対策など、そもそもスタートラインに立つことに不安がある場合が少なくありません。
カミングアウトのリスク:採用されない不安
カミングアウトして就職活動をしたい人には、それが不利益になって採用されない不安があります。
「あーはいはい、流行りのやつね」「うちには君みたいな人はいない」という反応や、「これからどんどんカミングアウトしていけばいいよ」という意図に反しないカミングアウトの推奨をされたという体験談もあります。
反対にクローズな状態で就職活動をしたい人は、自分自身のことを隠し続けることで偏見や無理解に苦しむ可能性があります。
戸籍名や性別欄の圧迫
就職活動をする際に、そもそも履歴書の性別欄で迷ってしまう、戸籍名と呼ばれたい名前が異なる、男女で定まった形のリクルートスーツを着なければならないといったように、制度や慣習が壁となっています。
特にトランスジェンダーの人にとって、これらは単なる事務手続き以上の精神的負担です。
職場での困りごとと“無意識の偏見”

いざ就職して働くことになっても、困りごとや無意識の偏見がそこにはあります。毎日通う場所、毎日会う人だからこその苦しみです。
職場は生活の大部分を過ごす場所であり、毎日の小さな違和感や疎外感が積み重なり、モチベーションや健康に影響することもあります。
困りごとは職場の設計や組織に原因があることが多く、偏見については友人関係などのように、関わる人を自分では選べない点に困難があります。
トイレ、制服、更衣室、名前呼称などの現実
男女しか存在しない・全員が出生時に割り当てられる性別で生活しているという前提で職場が作られている場合が多く、「過ごしづらさ」に繋がっています。以下のようなケースが想定されます。
- 男性用・女性用トイレしかない
- 男女で制服が分かれている、服装規定が男女で異なる
- 男性用・女性用更衣室しかない
- 戸籍上の名前で呼ばれる
LGBTQ研修をしていても、実際の文化が追いつかないケース
研修で理解を深めようという取り組みはあります。受講後に行動や職場文化が変わらなければ形骸化します。
研修を受けても意識や職場の文化が変わらない限り、居心地の悪い状態は変わりません。業務外の雑談の時間など、居心地の悪い思いをするケースがあります。何気ない「恋バナ」、近況報告などの場面を恐れる当事者もいます。
アウティングやマイクロアグレッション・マイクロアサルトに合う可能性、配慮と称した仲間外れに晒される危険もあります。
誰もが安心して働ける職場のヒント

誰もが安心して働ける職場づくりには企業の協力が不可欠ですが、個人レベルでもできることは多くあります。
企業による取り組み事例
企業の取り組み事例には、次のようなものがあります。
- 採用時に通称使用を認める(婚姻で姓が変わった人にも有効)
- 同性パートナーにも家族手当を支給
- 誰でも使えるトイレや更衣室の設置(障害者や介助者にも配慮)
- jobrainbowなどLGBTフレンドリー求人サイトの活用
カミングアウトしなくても尊重される文化づくり
「配慮してもらうには自らカミングアウトする必要がある」という構造は、当事者にとって負担です。重要なのは、セクシュアリティを前提に決めつけずに接する姿勢であり、それがハラスメント防止にもつながります。
「一人ひとりの違いを前提とする」職場とは
多くの職場は、
- 男女二元論
- 異性間恋愛が前提
- 全員が20代~30代で結婚するもの
といった無意識の前提に基づいています。
こうした前提を緩めることで、あらゆる人が力を発揮できる環境が整います。
見えない壁のない職場のために

LGBTと仕事の問題は、当事者だけの課題ではなく、職場全体の文化や制度の在り方に直結しています。多様な性のあり方や生き方を尊重することは、企業にとっても人材活用の幅を広げる大きなメリットになります。
見えない壁をなくすための一歩は、「違いを前提にする」という視点を、職場のあらゆる場面に持ち込むことから始まります。