「愛する人と、家族になりたい」。これはごく自然な願いですが、日本では同性カップルは法律上の「結婚」という選択肢を持てないのが現状です。こうした状況を変えようと、各地で「結婚の自由をすべての人に」訴訟が行われています。この記事では、訴訟の背景や現状、今後の見通しをわかりやすく解説します。
日本は置き去りにされる?世界の同性婚の現状

まず、世界の状況を見てみましょう。2025年6月現在、39の国と地域が同性婚を合法化しています。アメリカやヨーロッパだけでなく、アジアでも2019年に台湾が、その後ネパール、タイが続くなど、同性婚を認める動きが広がっています。しかし、この中に日本は入っていません。G7では、日本だけが同性婚制度を持たない国です。
では、なぜ日本では法制化が進まないのでしょうか。大きな理由の1つが日本国憲法第24条1項の解釈です。この条文では、婚姻を「両性の合意」に基づくものとしています。これまで国会などでは、この「両性」という言葉を「男性と女性」と限定的に解釈し、同性同士の結婚は憲法で想定されていない、という見解が示されてきました。その上で法律が作られているため、同性カップルの婚姻届は受理されません。
その結果、同性カップルは法律上の夫婦として認められず、さまざまな面で不利益を受けています。例えば、財産の相続や配偶者控除などの税制優遇、健康保険の扶養は同性のパートナーでは受けられません。時には病院での面会の許可が得られないこともあります。このような様々な制約は、日々の暮らしに不安をもたらします。たとえ長く一緒に暮らすパートナー同士であっても、法律上は「他人」と扱われることは、とてもつらいことだと想像できます。
「結婚の自由をすべての人に」訴訟とは
国会での議論が進まない中、現状を変えようと立ち上がった人たちがいます。2019年2月14日、全国の同性カップル13組が国を相手取り、「同性婚を認めない現在の法制度は憲法違反だ」として提訴しました。これが「結婚の自由をすべての人に」訴訟の始まりです。
この訴訟は、札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の5つの地方裁判所で同時にスタートしました。訴訟では主に、憲法14条の「法の下の平等」や憲法24条の「婚姻の自由」が争点となっています。
この訴えに対し、司法は画期的ともいえる判断を次々と示しています。2021年3月の札幌地裁判決では、「同性婚を認めないのは憲法14条に違反する」という判決を下し、司法が初めて違憲を認めた事例として大きな注目を集めました。これを皮切りに、各地裁で違憲、または憲法に違反する状態にあるという判決が続き、 一審で「合憲」としたのは大阪地裁のみでした。
さらに流れは加速します。二審の高等裁判所では、札幌、東京、福岡、名古屋、そして大阪と、これまでに判決が出された5つすべてが、「同性婚を認めない現行法は憲法に違反する」と判断したのです。現在、複数の訴訟は、最高裁判所で係争中です。

判決で起こった社会の変化と、残された課題
高裁で違憲と判断されている一方で、政府や国会は「最高裁の判断を注視したい」という見解を示し、最高裁が判断するまでは具体的な法改正には動かないとされています。
しかし、社会レベルでは着実に変化しています。その象徴が、地方自治体が独自に導入する「パートナーシップ宣誓制度」です。この制度は、同性のカップルを公的に「結婚に相当する関係」と認めて証明書などを交付する制度で、2015年に東京都渋谷区と世田谷区で始まったのを機に、全国に広がっています。2025年時点で、この制度を導入する自治体は530に達し、日本の総人口に対するカバー率は92.5%を超えています。多くの自治体が、同性カップルを支援する姿勢を示しているのです。
ただし、パートナーシップ制度は法律上の婚姻とは違うので、その効力には限界があります。相続や税制の優遇といった、法律で定められた権利は保証されません。あくまでも、同性婚が法制化されるまでの「つなぎ」の役割といえるでしょう。根本的な解決策ではないからこそ、多くの人が「結婚の平等」を求め続けています。

制度実現に向けて、私たちができること
「結婚の自由をすべての人に」訴訟は、単に新しい制度を作るかどうかの問題ではありません。個人の尊厳をいかに尊重し、誰もが平等な権利のもとで幸福を追求できるためにはどうしたらいいか、という根本的な問いを突きつけているのです。
私たち一人ひとりがこの問題を自分事として考え、議論に関心を持ち続けることが、制度の実現に向けた一歩になるでしょう。