性的マイノリティを含む多様な人材が働きやすい職場にするためには、職場全体での意識向上と具体的な取り組みが重要です。今回は、厚生労働省委託事業の調査報告(※)をもとに企業の具体事例をご紹介します。
各企業が取り組みやすいよう、 従業員数別に4社の事例を挙げました。自社に取り入れる際のヒントになりましたら幸いです。
従業員数29人以下:ジュークアンリミテッド株式会社(岩手県)
ジュークアンリミテッド株式会社は、ブランディングコンサルティング、建築物の企画・設計・監理、デザインなどを手掛ける企業で、従業員数は5名(2024年12月現在)です。
同社がLGBTQ+に関する取り組みを始めたのは、社長が前職で性的マイノリティ当事者の社員からカミングアウトを受けた経験がきっかけです。「性的マイノリティ当事者が暮らしやすい社会を実現したい」という社長の強い思いが、会社全体でのサポートへとつながっています。

スーパーアライ宣言
2020年6月のプライド月間に岩手県で初めて「スーパーアライ宣言」を行いました。多様な社員が働く中で「アライの考え方が特別なものではない」という同社の理念を明確に示し、同時にアライに賛同する中小企業が増えることを目指しています。
「アライ宣言」のキットを顧客に無償提供
デザイン系の企業である強みを活かしてレインボーカラーのステッカーやアライ宣言のキットなどを顧客に無償で提供し、社外への啓発活動にも積極的に取り組んでいます。
社外セミナーを実施
「岩手県でLGBTQ+に関する取り組みを行う中小企業を100社誕生させること」を目指し、社外に向けてのセミナーやコンサルティングを実施し、地域の企業への理解促進に注力しています。
従業員数30〜99人:株式会社エフエーエス(香川県)
株式会社エフエーエスは、運輸業を営む従業員数51名(2024年9月現在)の企業です。「ジェンダーや障がいに関わらず全員が活躍できる職場」を掲げ、差別のない平等な職場環境づくりを目指しています。
2022年には「にじいろ未来づくり推進課」を創設。性的指向・性自認に関する取り組みを推進する部署で、性的マイノリティ当事者である社員が担当者を務めています。当事者が取り組みの中心的役割を担うことで、ボトムアップでの多様な施策推進を可能にしています。

レインボーフラッグを設置
同社が最初に取り組んだことは、職場で目につきやすい場所にレインボーフラッグを掲げることでした。小さな一歩ですが、これをきっかけに社員が会社の姿勢を知り、一人ひとりが関心を持つようになりました。
管理職向けの社内研修
にじいろ未来づくり推進課の担当者が講師となり、管理職および上層部向けの社内研修を実施しました。管理職や上層部を対象としたのは、職場においてマネジメント層の影響力が大きいと考えたためです。研修ではLGBTQ+の基礎知識、当事者が抱えている困難さ、職場におけるアウティングなどのリスクについて説明を行いました。
個室の更衣室を設置
誰もが働きやすい環境づくりの一環として、既存のプレハブを活用し、一人ずつ利用できる更衣室を増設しました。個室スペースを有効活用するため、空いている時間帯はワーキングスペースや相談室などとしても活用されています。
従業員数100〜299人:加藤精工株式会社(愛知県)
加藤精工株式会社は、自動車部品製造業を営む従業員数221名(2024年11月1日現在)の企業です。
同社のLGBTQ+に関する取り組みは、2010年代半ばに社員からの相談を受けたことに始まり、2017年頃に社長がLGBTQ+に関する記事を読んだことが大きな転機となりました。社長は「社内にも当事者がいるだろう」と考え、総務部が中心となって取り組みの検討。当事者がカミングアウトすることを目的とせず、当事者の有無に関わらず誰もが働きやすい環境づくりを目指しています。

全社員に向けての研修を実施
まずは2018年に管理職を対象とした研修を実施し、2021年には全社員向けの研修を開始しました。現在は新入社員も含めて全員が受講できるよう、継続的に実施しています。研修を通じて社員の理解の土壌がつくられ、話しやすい環境が整ってきています。
「あんしん休暇」の利用対象を拡大
あんしん休暇は、未使用の年次有給休暇を積み立てて傷病などの際に使用できる、同社独自の制度です。これを性別適合手術やホルモン治療の際にも利用できるよう改定し、比較的容易に長期的な治療サポートを受けられるよう配慮しました。
社外に向けた発信活動
同社は毎年LGBTQ+関連のイベントに出店し、社長も含めて積極的に参加しています。また、社内で「わたしたちはアライです」というマグネットステッカーを作成し、共用部に置いて来客や学生が自由に持ち帰られるようにするなど、理解促進に貢献しています。
従業員数1000人以上:順天堂大学医学部附属順天堂医院(東京都)
順天堂大学医学部附属順天堂医院は、従業員数4,280名(2025年3月1日現在)の医療機関です。LGBTQ+に関する取り組みのきっかけは、ある職員が「患者さんがパートナーシップ証明書を持参した場合、どのように対応したらいいか」と安全管理部に問い合わせたことでした。これを重要な問題だと捉え、「SOGI※をめぐる患者・家族・職員のための配慮と対応ワーキンググループ」(以下、ワーキンググループ)の創設に至りました。現在は、患者と職員の両方に対して包括的な配慮を行っています。

※SOGI・・・性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字をとった略語。性的マイノリティだけでなく、すべての人が持つ性の在りようを示す言葉。
職員を対象に「少人数制」のセミナーを開催
SOGIに関するセミナーを定期的に開催しています。対話を通じて理解を深めることを目的とし、10名程度を上限とした少人数制にしているのが特徴的です。講師として様々なセクシュアリティの性的マイノリティ当事者を迎え、多角的な視点を取り入れた研修となっています。
SOGI相談窓口を開設
毎週月曜日の午後に開設し、患者やその家族、大学教職員、学生、一般市民など、対象者を問わず無料で相談を受け付けています。相談には、医師であるワーキンググループの委員長とアライの看護師が対応。必要に応じて院内の診療科や外部の医療機関、支援団体を紹介しています。電話予約制で匿名での利用も可能です。
福利厚生制度を拡充
大学法人全体で人事規約を改定し、同性パートナーに対しても法律婚の配偶者と同じ福利厚生制度を適用しています。具体的には、自治体のパートナーシップ証明書などの提出を要件に、休暇・休職制度や弔慰金の支給などを行っています。
さらに、通称名使用、性別移行や戸籍変更の相談対応、性別適合手術やホルモン治療時の就業継続サポートなども拡充しています。
事例を参考に、できることから一歩ずつ
誰もが働きやすい職場を実現するには、多様性を受け入れる一人ひとりの意識と、具体的な施策が必要です。ここに挙げた様々な規模や業種の企業を参考に、できるところから取り入れてみてはいかがでしょうか。




