2025年も後半に差し掛かりました。日本と世界におけるLGBTQIA+の状況は、進展と逆風が交錯する複雑な時期といえます。本記事では、日本国内と海外の動きをポジティブ・ネガティブ両面から取り上げ、今後の展望を考えます。
日本の着実な前進と政治的逆流 : ポジティブな変化
・パートナーシップ制度の全国普及
性的少数者の権利を擁護する大阪の非営利団体「にじいろダイバーシティ」と、 2015年にこの政策を先導した東京都渋谷区の共同調査によると、日本では地方自治体による同性パートナーシップ制度の導入が急速に進み、2025年5月時点で530市区町村が導入。発行された証明書は9,836組に上り、現在では人口の92.5%をカバーしていることに。制度が認知されることでLGBTQIA+がより身近な存在として知られることにも繋がっています。
・東京マラソンにノンバイナリーの部門が登場

東京マラソンは2025年、世界6大マラソンの中で最後となる「ノンバイナリー」カテゴリーを新設。ジェンダー中立の設備設置やLGBTQIA+啓発セミナーも実施し、多様な走者に配慮した大会運営を目指しています。
・Tokyo Prideの再編と規模拡大
東京レインボープライドは2025年、「Tokyo Pride」と名称と位置を刷新。6月のグローバルPride月間に催しを拡大し、「Same Life , Same Rights(同じ人生、同じ権利)」をテーマに、パレード・人権会議・アート展示など多彩なプログラムを展開しました。
・高裁・最高裁の審理による婚姻平等への期待
北海道から京都まで、全国6つの高等裁判所が同性婚禁止は憲法違反と判断。現在、最高裁での判断が注目されており、2026年の判決が婚姻平等実現の鍵を握ります。
日本の着実な前進と政治的逆流 : ネガティブととれる兆候
・国政に潜む反動勢力の台頭
2025年7月の参議院選挙では、「現行のLGBT 理解増進法の廃止」「同性婚に反対」など、LGBTQIA+コミュニティにとってネガティブに受け取られる政策を掲げる新興の「参政党」が支持を伸ばし、与党への牽制となっています。婚姻平等や差別禁止法の成立に向け、与党的な議席バランスが厳しい環境に変化しています。
・包括的な人権保護法の不在
日本には性的指向や性自認を対象とした国レベルの差別禁止法が未だ整備されておらず、地方制度に頼った現状が続いています。最高裁の判断や次期国会での議論が待たれます。
世界の状況は?前進と後退の間で揺れる潮流 : 海外の前向きな展開

・東南アジア初の婚姻平等(タイ)
2025年1月23日に、タイが東南アジアで初めて同性婚を合法化。民法には「個人」と「配偶者」という用語が採用され、同性カップルも正式な婚姻届を提出し、子の共同養子縁組も可能になっています。
・ローマカトリック教会が祝福式を認可(ドイツ)
ドイツのカトリック司教会議は、「Fiducia supplicans」に続く形で同性のパートナーを祝福する式を認めるガイドラインを公表。信仰とジェンダーの融合の模索が進展しています。
・ロンドンTrans+ Pride、10万人を超える参加者(英国)
「Existence & Resistance(存在と抵抗)」をテーマに、ロンドンで開催されたTrans+ Prideでは10万人以上が集まり、世界記録となりました。抗議と誇りを共に示す場として大きな象徴になっています。
国際社会の逆風

・英国最高裁の性の二元性肯定判決
英国最高裁は、法的性別は出生時に割り当てられた「性」に基づくと判断。トランス女性を法的女性と認めない判決が、保護への逆行として懸念されています。
・世界的な支持率の低下(2021年比)
Ipsosの報告によると、同性婚やトランスアスリートの許容率、企業のLGBTQ支持など、グローバル平均で支持が低下傾向にあります。可視性や採用支援プログラムへの支持も減少しており、巻き戻しへの警戒が必要です。
・米国からの対外的影響:支援撤退と権利後退
トランプ政権の復帰により、グローバルな反LGBTQIA+ の動きが活性化。PEPFAR(エイズ支援計画)の資金削減により、アフリカ諸国などで治療アクセスが悪化。草の根での抵抗や連帯活動の重要性が一層高まっています。
・プライド資金の減少と企業支援の縮小(米国)
2025年のアメリカでは、Prideイベントのスポンサーが減少。ニューヨーク市では予算が20%縮小されるなど、資金面での課題が深刻化する中、地域コミュニティによる復元力が試されています。
先を見据えて。今後の可能性と課題
1. 日本の婚姻平等と全国法整備に向けた動き
最高裁判決次第では、国会で婚姻平等法案や包括的差別禁止法の議論が本格化する可能性があります。2026年以降の政治展開が鍵となります。
2. 地域間の連携強化による包摂社会の実現
自治体によるパートナー制度や、企業・大会・文化イベントのLGBTQ配慮は地域間格差の縮小につながります。こうした潮流を全国規模で共有することが期待されます。
3. グローバルな逆風への対応と連帯の強化
国境を越えた法的後退や支援縮小に対抗するため、国際的な草の根ネットワークや支援基金の設置、オンライン連帯の強化が不可欠です。
希望と課題が交差する時代
2025年前半は、日本では制度整備やマラソン参加制度の多様化、Prideイベントの改革による可視性向上と同時に、政治的反動の兆しも見られる年となりました。世界では、タイの婚姻平等やロンドンのTrans+ Prideの成功に象徴される進展がある一方、英国の判決や米国の資金縮小、中国・ウガンダなどでの権利制限など複雑な逆流も無視できません。
このような分岐点の時代だからこそ、個人による行動、一歩を踏み出す勇気、地域と国際をつなぐ思いやりが、未来の希望となるはずです。