80〜90年代前後のポップカルチャー分野にて、奇妙で悲劇な結末に縛られ「クィア=異質な存在」として消費されることが多くありました。そこから近年では、ひとつのアイデンティティとして自然に描かれることが増えています。
これにより差別や偏見を解消するきっかけになると同時に、LGBTQ+コミュニティのアイコニック的な存在となっています。こちらの記事では、ポップカルチャーで高い人気を誇るクィアキャラクターを紹介しているので、ぜひ最後まで読んでみてください
映画に登場するクィアキャラクター
まずは、映画に登場するクィアキャラクターを紹介します。
ダミアン(ミーン・ガールズ)
2004年公開の学園コメディ映画『ミーン・ガールズ』に登場したダミアンは、周りを明るくする”ガラスのクローゼットなゲイキャラクター”として人気を集めます。
※「ガラスのクローゼット(Glass Closet)」とは、周囲はなんとなく気づいているものの、本人がはっきりとカミングアウトしていない状態。
特にクリスティーナ・アギレラの「Beautiful」を舞台で歌っているときに靴を投げ返すシーンは、20年経っても名シーンとして色褪せることなく語り継がれています。
ダミアン役のダニエル・フランゼーゼは、しばらくゲイキャラクターのイメージを払拭できず、ハリウッドでのキャリア形成に苦労します。自身のセクシャリティを明かすことで、さらにその道が険しくなることを恐れてゲイであることを隠していましたが、10年経って「ダミアンは自分に誇りを持っていてみんなから尊敬されていた。若い頃の自分にも君のようなお手本が欲しかった。」という言葉とともにカミングアウトしました。クィアキャラクターとともに、ありのままの自分で俳優キャリアを築くロールモデルとなりました。
ジョーイ(エブリデイ・エブリウェア・オール・アット・ワンス)

SF映画『エブリデイ・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の主人公の娘・ジョーイは、作中で強烈なインパクトを残します。この物語は非常に難解で1度見ただけですべてを理解することは困難ですが、繰り返し見ることで母娘が強くぶつかりながら「ありのまま」を受け入れていく過程に心打たれます。
レズビアンのジョーイは、母親・エヴリン(主人公)に彼女を紹介するも、「彼」呼びされたり、親戚に「友達」として紹介されるなど心無い発言に傷つきます。”アメリカに住む中国系移民”というバックグラウンドも相まって、より葛藤や孤独感を募らせる描写は、世代の違いで理解しあえない苦悩がリアルだと共感を集めました。
ここで考えたいのは「クィアの家族を受け入れられないことは悪なのか」という問題。エヴリンは、古い価値観に固執していますが、娘の幸せを願う気持ちは本物です。LGBTQ+を通じて親子の愛と絆が再生していくシーンは、多様性社会の過渡期における理想そのものといえるでしょう。
ロランス(わたしはロランス)

ロマンス映画『わたしはロランス』の主人公・ロランスは、ありのままで生きることが社会との摩擦や孤独を招く現実を映し出し、観客に深い問いを投げかけました。
LGBTQ+の描写は時代とともに変化していますが、この作品は、クィアキャラクターを過度に”善人”や”数奇な運命に直面した人”として描かないことで、普遍的な人間性の中での葛藤をリアルに表現しています。
同作品でメガホンを握ったのは、LGBTQ+コミュニティではお馴染みのグザヴィエ・ドラン監督。自身の生い立ちやセクシャリティで体験した視点から、アーティスティックな質感や楽曲とともにセンセーショナルなストーリーを描くことで有名です。同作でも空から大量の服が降ってくるシーンが、ジェンダーにとらわれないLGBTQ+とアートの親和性の高さを象徴しています。
ドラマに登場するクィアキャラクター
続いては、ドラマに登場するクィアキャラクターを紹介します。
ロビン・バックリー(ストレンジャー・シングス)
Netflixドラマ『ストレンジャー・シングス』のシーズン3から登場するロビン・バックリーは、俳優マヤ・ホークの提案から生まれたクィアキャラクターとして支持されています。
当初はバイトの同僚スティーブの恋愛対象として描かれる予定でしたが、ロビンを演じる中で「彼女はゲイのほうが自然だ」と感じたことをきっかけに脚本が再考されます。興味深い点は、マヤ・ホークは大作への出演経験のない駆け出し俳優であったにも関わらず、製作陣が彼女の直感に耳を傾けているということです。時代の流れとともにLGBTQ+描写に対する現場の柔軟性が増していることが伺えます。
ロビンが「私は女性に惹かれている」と告白する場面は、過度な演出に頼らずにナチュラルさを追求したことで、視聴者を惹きつけました。
エリック・エフィング&アダム・グロフ(セックス・エデュケーション)
Netflixドラマ『セックス・エデュケーション』では、エリック・エフィングとアダム・グロフが予想外すぎる展開で結ばれたクィアカップルとして話題になりました。
エリックはゲイであることを隠さずたくさんの友達と学生生活を楽しむ一方、アダムは厳格な校長の父親の影響から自分の感情を押しつぶし、エリックをいじめるなど攻撃的な行動を繰り返しています。対極的な2人ですが、それぞれの抱える苦悩や恐怖が露呈したとき、惹かれ合い、アダムは葛藤を乗り越えて自身の幸せを掴み取ろうとします。
第一印象が最悪だったアダムですが、エリックと恋人になってからは、周りの声を聞きながら成長しようとする姿が見られ、視聴者からの評価を覆しました。親や社会からのプレッシャーや古い価値観による「アイデンティティの拒絶と解放」というテーマは、Z世代を中心とする多くの人たちに共感を与えています。
サイラス(アンディ・マック)
ディズニーチャンネルのドラマ『アンディ・マック』に登場するサイラスは、同局で初めてLGBTQ+を公言するキャラクターとして描かれて話題になりました。
アメリカでは「過度なLGBTQ+描写は子どもに悪影響だ」との声も多く、同性愛をテーマにした番組は多くありません。そんな中、サイラスが「I’m gay(ぼくはゲイだ)」とナチュラルに告白し、周囲から受け入れられる描写は、セクシャリティに悩む若者に安心感を与えています。当事者以外の人も、偏見や差別的な視線を見直すきっかけとなるでしょう。
何より、社会の圧力によって敬遠されていたLGBTQ+描写が、ディズニーチャンネルで扱われたこと自体が大きな前進といえます。これは、多様性の理解を深める上で重要な一歩であり、より自由度の高い表現の可能性が期待されます。
アニメに登場するクィアキャラクター
最後に、アニメに登場するクィアキャラクターを紹介します。
ハーレー・クイン&ポイズン・アイビー(バットマン)
アニメ版『バットマン』シリーズに登場するハーレー・クインとポイズン・アイビーは、アイコニックなビジュアルからコスプレや二次創作でも人気なクィアカップルとして熱烈な支持を受けています。
シリーズ当初、ジョーカーに魅了されて洗脳されるように恋に落ちて犯罪の世界へと足を踏み入れます。依存によって支配されている状態で、ヘルシーな人間関係ではありません。アニメ版でも実写版でも、ジョーカーへの依存から脱し、自立した女性としてポイズン・アイビーと出会うことになります。アニメシリーズ『ハーレイ・クイン』のシーズン2では、ポイズン・アイビーと大恋愛の末、ファン待望の結婚を果たしました。
天王はるか(セーラームーン)
日本発のTVアニメ『セーラームーン』に登場する天王はるかは、90年代に誕生したノンバイナリー的なクィアキャラクターとして象徴的な存在感を放ちます。
公式資料では女性となっていますが、原作漫画では「私は男でも女でもない、天王はるかよ。」というセリフがあり、装いもジェンダーの枠を超えています。また、はるかは女性の海王みちる(セーラーネプチューン)と恋人関係に。性別にとらわれない自己認識、オープンな同性関係、それらを自然に受け入れる周囲の世界観は、当時の少女アニメとしては異例であり、その革新性は現代にも影響を与えています。
90年代の北米放送では、同性愛描写に制限があったため「恋人」から「従姉妹」に改変され、恋愛要素がなくなっていました。後に、LGBTQ+描写への制限が緩和されたことで、現在では日本と同じ設定になっています。社会変化とともに、自身のアイデンティティを取り戻した存在として、コミュニティから語り継がれています。
クィアキャラクターが切り拓く多様性に富んだポップカルチャーの新しい形
お気に入りのクィアキャラクターはいましたか?かつては異質な存在として描かれることが多かったクィアキャラクターですが、現在では一つのアイデンティティとして尊重される機会が増えています。一方で、ポリコレやクィアベイティングなど演出をめぐる新たな指摘も。クィアキャラクターがコミュニティの心の支えとなり、社会の多様性理解を育む存在であるためには、表面的な演出ではなく、当事者の声や経験を反映させる姿勢が重要といえるでしょう。



