性別は男性か女性かの二択で固定されるもの、と考えられることがまだあります。しかし人によっては、性自認は日によって、状況によって、または人生の中で流動的に変化します。こうした在り方を指すのがジェンダーフルイドです。
この記事では、ジェンダーフルイドの定義や他のセクシュアリティとの違い、当事者が直面する課題について解説します。
ジェンダーフルイドの定義

ジェンダーフルイド(Gender Fluid)とは、性自認が固定されず、時間や状況に応じて流動的に変化するあり方を指します。ある時は男性としての感覚が強く、別の時期には女性としての感覚を持つこともあります。また、どちらでもない・両方を同時に感じるといった状態を行き来することもあります。
重要なのは、この変化が迷いや未熟さではなく、その人にとって自然で一貫した自己認識のスタイルだという点です。
性自認の流動性とは?
性自認の流動性とは、性自認が一定ではなく変化することが前提として受け止められる状態です。ジェンダーフルイドの人は、自分の性を固定的に定義することに違和感を持ち、状況や内面の変化に応じて、今の自分にしっくりくる性自認を選び取ります。
例えば、ある人は職場では男性として振る舞いながら、プライベートでは女性としての服装や表現を楽しむかもしれません。また、今日はノンバイナリーとして過ごしたいと感じる日があることもあります。こうした柔軟さは不安定さではなく、自分をより深く理解し、正直に表現する姿勢だといえます。
性自認の流動性を理解することは、性別を固定的な属性とする社会的な前提を問い直すきっかけにもなります。
ノンバイナリー・アジェンダー・トランスジェンダーとの違い
ジェンダーフルイドは、他のセクシュアリティ用語と混同されやすいですが、それぞれに独自の意味があります。
まずノンバイナリーは、男性・女性の二元論に当てはまらない性自認を持つ人を指します。固定されていなくても、必ずしも流動するわけではありません。
アジェンダーは、性別を持たない・性自認を感じない立場です。流動するのではなく性別の枠自体を持たないと考える人もいます。
トランスジェンダーは、出生時に割り当てられた性と自認する性が異なる人を指します。ただしトランスジェンダーの中にも、流動性を伴う人がいます。
ジェンダーフルイドは、これらの用語と重なり合う部分もありますが、変化すること自体が特徴という点で区別されます。
ジェンダーフルイドとして生きる課題

ジェンダーフルイドは個人にとって自然で正直なあり方ですが、社会の制度や文化はまだ固定的な性を前提に作られているため、日常生活でさまざまな課題に直面します。
戸籍や身分証が1つの性別しか選べない
日本の戸籍や住民票、運転免許証などの身分証明書は、必ず男性または女性のどちらかを選ばなければなりません。ジェンダーフルイドの人にとって、こうした二択の制度は自分を正確に表せない苦しみを生みます。
例えば、日によって性自認が異なる場合でも、身分証には一つの性別しか記載されません。そのため、公的な手続きや就職活動で本来の自分と書類上の性との間にギャップが生まれ、強いストレスを感じることがあります。海外ではXジェンダー(第三の性別)を認める国も増えていますが、日本ではまだ制度整備がされていないのが現状です。
制服や職場ルールが固定的な性を前提としている
学校や職場では、制服やドレスコード、更衣室やトイレの使用ルールが男性用・女性用と区別されていることが一般的です。ジェンダーフルイドの人は「今日はスカートを着たい」と思っても規則で制限されることがあり、自分らしい表現が妨げられます。
近年では、制服を自由に選べる学校や、ジェンダーニュートラルなユニフォームを導入する企業も登場しています。例えばヴァージン・アトランティック航空は性別による制服規定を廃止し、従業員が自由に選べる制度を整えました。こうした取り組みはまだ一部に限られていますが、多様な働き方や学びの場を実現する重要な一歩です。
周囲からの誤解や揺れている=迷っているという偏見がある
ジェンダーフルイドの人は、周囲から「性別が定まっていないのは迷っているから」「まだ決めきれていないのだろう」と見られることがあります。しかし、実際には変化すること自体が自分らしさであり、迷いではありません。
また、恋愛やパートナーシップにおいても「日によって性別が変わるなら関係が不安定になるのでは」といった偏見が向けられることがあります。こうした誤解は、固定された性を前提とする社会的な価値観から生まれるものです。性の多様性を理解するためには、流動性を不安定さではなく、自然な一部として捉える視点が不可欠です。
ジェンダーフルイドを知って性の固定観念を見直すきっかけに
ジェンダーフルイドは特別な存在ではなく、人間の多様なあり方の一つです。性別を固定的に考える価値観から離れれば、誰もがもっと自由に、自分らしく生きられる社会につながります。まずはジェンダーフルイドという概念を知ることが、性の固定観念を問い直す第一歩です。

