LGBTQ+をテーマにした映画は、差別や偏見の中でも愛やアイデンティティを掴み取ろうとするストーリーが多く描かれており、観る人の心を揺さぶります。この記事では、LGBTQ+に対する考えが変わりつつある過渡期だからこそ観ておきたい映画を5つ紹介します。
LGBTQ+をテーマにした映画とはどういうもの?
LGBTQ+を取り扱う作品では、恋愛や人間関係に触れるのではなく、自身のアイデンティティと向き合う過程や周りの人たちの変化まで丁寧に描かれることが増えています。一方で、作り手の意図とは異なる形で、BL(ボーイズラブ)やGL(ガールズラブ)などの視点からエンタメとして消費されることも少なくありません。
映画の楽しみ方は人それぞれですが、今回はエンタメとして消費するのではなく、LGBTQ+の当事者のリアルな苦悩や社会的メッセージに重点を置いて作品を紹介していきます。
『ある少年の告白』(2018)
実際の回顧録をベースに作られた本作は、牧師の父と母の一人息子として大切に育てられてきた青年・ジャレットが”同性愛を治療する矯正施設”に送り込まれる物語です。
原題 | Boy Erased |
上映時間 | 115分 |
制作国 | アメリカ |
監督 | ジョエル・エドガートン |
出演者 | ルーカス・ヘッジズニコール・キッドマンラッセル・クロウグザヴィエ・ドラン |
主人公がセラピーの担当者から「君は選択を誤った」と告げる場面は、アイデンティティそのものを真っ向から否定する残酷なもので、宗教による偏見の深刻さを浮き彫りにします。閉鎖的な空間で、精神的なトラウマを与えることで性的指向を矯正しようとしますが、科学的・医学的根拠は一切なく、人道的ではありません。アメリカではコンバージョン・セラピー(矯正施設)が数多く存在しており、現在は法律で入所が禁じられているものの、密かに活動を続けているところもあるようです。
愛する子どもが宗教のタブーを犯してしまったときの親の葛藤も描かれており、複数の登場人物の視点からLGBTQ+が抱える課題を浮き彫りにしています。
『燃ゆる女の肖像』(2019)
18世紀のフランスにある孤島を舞台に、お腹に子どもを身籠っている貴族の娘エロイーズと画家マリアンヌの間で密かに芽生える愛の物語です。
原題 | Portrait de la jeune fille en feu |
上映時間 | 120分 |
制作国 | フランス |
監督 | セリーヌ・シアマ |
出演者 | ノエミ・メルランアデル・エネルルアナ・バイラミヴァレリア・ゴリノ |
映画業界には圧倒的に男性の数が多いこともあり、”男性の視線”から女性が描かれがちですが、本作では意図的にその視線が排除されています。
18世紀に生きる女性の多くは、自身の欲求や好奇心を表に出すことができない抑圧された環境下で暮らすことが当たり前でした。そんな中、他者の視線や社会常識から切り離れた肖像画を作り上げる空間で、女性たちが初めて心が揺れる体験をする瞬間を静かにかつ情熱的に映されています。
思わず息を呑む映像美、肖像画の完成が近づくにつれて押し寄せる不安、予測不能な二人の愛の形の行く末、そのすべてが観る者の心を揺さぶります。
『リリーのすべて』(2015)
世界で初めて性別適合手術を受けたトランス女性リリー・エルベ(アイナー・ヴェイナー)と、リリーを支え続けた妻ゲルダ・ヴェイナーの半生を描いた物語です。
原題 | The Danish Girl |
上映時間 | 120分 |
制作国 | アメリカ |
監督 | トム・フーパー |
出演者 | エディ・レッドメインアリシア・ヴィキャンデルアンバー・ハードマティアス・スーナールツ |
アイナーが女性モデルの代役をしたとき、自身の心の内に眠っていた”女性”の存在に気づく場面、その表情や仕草は演技とは思えないほど真実味に満ちています。2016年のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたほどですが、この演技があったからこそ、心と身体の性が一致しない人生の苦しみと解放に心打たれることでしょう。
なお、映画業界では「LGBTQ+の役は当事者が演じるべきだ」という声もあがっており、エディ・レッドメインは後に「今オファーをされれば引き受けていない。良かれと思って映画を作ったが、間違いだった。」とコメントを残しています。
LGBTQ+の作品は増えていますが、実際の映画界では多くの人が平等に声を上げる機会が与えられていない問題に対して、レッドメインも変化が必要だと主張しています。
『君の名前で僕を呼んで』(2017)
1983年の北イタリア、17歳のエリオと24歳のオリヴァーが出会い、生涯忘れることのないひと夏の恋を描いた物語です。
作品名 | Call Me by Your Name |
上映時間 | 132分 |
制作国 | イタリア、フランス |
監督 | ルカ・グァダニーノ |
出演者 | ティモシー・シャラメアーミー・ハマーマイケル・スタールバーグアミラ・カサール |
LGBTQ+の作品では、家族や友人など身近な人たちからも自身のアイデンティティを理解してもらえずに苦しむシーンが多くありますが、本作は異なります。
エリオの両親は、息子がオリヴァーに惹かれていることに気づいても拒絶することなく、それは美しく尊い感情であると言動で伝えます。エリオとオリヴァーの掛け合いはもちろん素敵ですが、経験を交えて真摯に語りかける父、傷ついたエリオにそっと寄り添う母、慈愛に満ちた2人の存在が物語をより深く温かいものにしています。
『トムボーイ』(2011)
『トムボーイ』は、新しい街に引っ越してきた10歳の少女ロールが、自身をミカエルと名乗り少年として地元の子どもたちと友達になる物語です。
作品名 | TOMBOY |
上映時間 | 82分 |
制作国 | フランス |
監督 | セリーヌ・シアマ |
出演者 | ゾエ・エランマロン・レヴァナジャンヌ・ディソンマチュー・ドゥミ |
妹ジャンヌは、姉のことを本名のロールと呼ばずミカエルと呼んでいます。「こうであるべき」という既存の枠にとらわれることなく、目の前の人間に対して純粋に向き合うことができる幼い子どもならではの感覚は、多様性を目指す社会の理想といえます。
一方で、クライマックスに向けて真実が露見しかけたとき、地元の子どもたちの態度が無慈悲にも一変する場面は、LGBTQ+に対する厳しい現実を突きつけています。子どもの視点からアイデンティティの多様性を問いかけることで、社会で構築された既存の枠組みに対する違和感や不健全さを示唆しています。
LGBTQ+をテーマにした映画が投げかけるメッセージ
LGBTQ+をテーマにした映画には、社会の中で見過ごされがちな小さな声や想いが込められています。物語の余韻に浸りながら作り手が投げかけるメッセージを咀嚼することで、観客自身の価値観や他者との向き合い方にも変化が生まれるでしょう。
今回ご紹介した5作品以外にもLGBTQ+映画はたくさんありますので、個性や違いを尊重する視点を育むきっかけとして、視聴してみてください。